今年デビュー20周年を迎えたクレイジーケンバンドのフロントマン、横山剣さんがオススメする「大人が今聴くべき3曲」。今回、「興奮」をテーマにセレクトしてくれた横山さんが、フランキー・ビヴァリー&メイズの「Too Many Games」、山下達郎さんの「Bomber」に続いて選んだ楽曲とは? 話はどんどん脱線し(!)、ロリポップ・ソニック(フリッパーズ・ギターの前身バンド)との出会いなど貴重なエピソードを明かしてくれました。
──最後に紹介していただくのは?
ブーツィーズ・ラバー・バンドの「Disciples Of Funk (The Return Of The Funkateers)」です。ブーツィー・コリンズというと70年代の作品が有名ですが、この曲は1990年のリリース。当時の最新サウンドと、ブーツィーならではのファンキーなベースが混じり合って、興奮せずにはいられない曲ですね。「混ぜるなキケン!」という感じ(笑)。
──この曲にまつわるエピソードはどんなものがありますか?
昔僕ら、地元の本牧で毎月水曜日に、ソウル・トレインならぬ「ソウル・ トルエン」というふざけた名前のイベントをやってたんです。そこでよくかけていたのがこの曲でした。老若男女問わず、無条件で踊ってくれてましたね。会場だった「Italian Garden」というお店は、普段は「本牧ピザ」(四角い形が特徴のピザ)を売りにしていた老舗のイタリアン・レストラン。その時のヴァイブスだったり、何かの拍子にいきなりクラブ仕様に変身するっていう不思議な場所でした。1950年代にオープンして、オーナー・チェンジを繰り返しながら97年までやっていたお店なんですけど、最後のオーナーの時に、 CKBの前身、CK’Sも出演させてもらうようになって。
──当時、横山さんは30代ですか。
そうですね。「Italian Garden」には、色んなタイプのお客さんが遊びにきていました。パーティー開いてもガラッガラだった時もあれば、急に通りすがりの人や団体のお客さんが入ってくる時もあって。オーガナイズしている僕らもめちゃくちゃで、盛り上がってくると同じ曲を「じゃあ、もう1回!」なんて言ってかけちゃったりして。
──フリースタイルにもほどがある……(笑)。
でも、ギャズ・メイオール(トロージャンズ)がオーガナイズしていた有名なクラブ・イベント「GAZ’S ROCKIN’ BLUES」をそこでやったり、いきなり数学博士のピーター・フランクルが来て夜の数学教室が繰り広げられたり、そこの従業員がメンバーだったアフロ・プレジデントってバンドがインコグニートのブルーイからスカウトされそうになったり、とにかく色んな人が集まるカオスなお店でしたね。ある時期ファッションヘルスみたいな風俗店にもなったのですが(笑)、それでも名前は一貫して「Italian Garden」という。
──へぇー! CKBのアルバム『ITALIAN GARDEN』(2012年)は、そこから来ているのですね。
今はもう取り壊されて、マンションが立っているんですけど、その向かい側に「IG」という名前で「本牧ピザ」を出してます。なので、当時の「Italian Garden」は見る影もないですが、「Disciples Of Funk」を聴くと当時のことを思い出すんですよね。本牧周辺、昔は娼婦もそれなりにいたエリアで、その名残っていうか、元娼婦のおばあちゃんとかいたりして。「メリーさん」(1980年代、横浜に出没していた白塗りの老女。米軍相手の娼婦と噂されていた)ほどのインパクトはないですけど。
──(笑)。横山さんは、DJをやっていたということもあって「曲単位」で音楽を聴くことが多いんでしょうかね?
そうかもしれないですね。アーティスト単位というよりは曲単位かも。アーティスト名も分からず、「いいな」と思った曲はカセットに録音して何度も聞いていました。「Italian Garden」では、カセットテープでDJをやったこともありましたね。何でもありだった。
──それこそ、今はプレイリストが主流ですけど、ミックステープなども作ってましたか?
もちろん。好きな曲を並べて、間に波の音などを入れたりして。海まで録音しに行くのは面倒臭いから(笑)、AMラジオの「ザー」っていうノイズを、ボリュームを上げたり下げたりして波みたいな音を作り出して。近所のDJアイク(アイク・ネルソン)という黒人に、「なんか英語で喋って!」って頼んで、『クワイエット・ストーム』(ソフト&メロウな楽曲を中心にセレクトする、ラジオのフォーマットや音楽ジャンルのこと)を手作りしてました。
──本格的!
アイクはFM横浜で番組もやっていたんですよ。あと本牧に「LINDY」というディスコがあって、すでに「ディスコ」という言葉が死後になりつつある90年前半くらいまで営業していたんですけど、そこでもDJやってた。米海軍の兵隊で日本に来て、除隊して日本に住み着いたっていう。
──そういう、色んな人との繋がりで横山さんの音楽性が確立されていったのでしょうね。
そう思います。自分はそんなに興味のない音楽を知るきっかけをもらうこともありましたし。バンド内でもそうですよ。僕自身、昭和歌謡とかそれほど詳しくはなかったときに、ドラムの廣石(恵一)から橋幸夫の『リズム歌謡シリーズ』などカセットテープでもらって。それを聴いた瞬間「あ、こういうのやりたい!」って思った。フレンチものや、ブラジル音楽に興味を持ったのもメンバーからの影響。昔、サロンミュージックと同じ事務所だったんですけど、サロンの竹中仁見さんがロリポップ・ソニック(フリッパーズ・ギターの前身となるバンド)を連れて来て。彼らの聴いている音楽にも興味を持ちましたね、アズティック・カメラとか大好きだった。まあ、アズティックの影響は、CKBにはそれほどなかったかもしれませんが、リスナーとしてはかなり好きでしたね。
──セルジュ・ゲンスブールもお好きなんですよね?
実は、CKBの「タイガー&ドラゴン」って、セルジュ・ゲンスブールの「フォード・ムスタング」(ブリジット・バルドーやジェーン・バーキンとデュエットした曲)っぽいアレンジでやるつもりだったんです。でも、当時の僕は昼間仕事して夜スタジオへ行く生活を送っていたので、レコーディングの途中で居眠りをしてしまって……。起きたらあの印象的なギターフレーズが入ってかなり和モノに変貌してたんです。結果、ゲンスブールっぽくしなくて大正解だったんですけどね(笑)。
──ゲンスブール・ヴァージョンの「タイガー&ドラゴン」も、いつか是非聞いてみたいです。本当に色んな音楽を聴いていらっしゃいますけど、横山さんの中で「いい曲の条件」ってありますか?
今回のテーマじゃないけど、やっぱり「興奮」ということになるのかな。興奮って、今回の3曲みたいに「うおー!」ってなるだけでなく、ゾクゾクするような興奮もありますよね。ボサノバとか聴いたときのような。
──知的興奮というやつですね。
そうそう。クールも「スーパークール」くらい極めることで、ホットより過激になる場合もある。そういう、知的好奇心をそそられるものが興奮するし、自分が好きな条件なのだと思います。「これ、一体どうなっているんだ?」って、構造に関心が向くんですよね。それで、その専門の人たち……例えばラテンだったらラテンのミュージシャンとセッションしてみる。余計に頭がこんがらがることもあるんですけど(笑)。
あと、シャカシャカしたものが好きかもしれない。パーカッションもそうだし、ギターのカッティングもそう。達郎さんのギターカッティングとかね。
──なるほど、言われてみればアズティック・カメラもアコギをジャカジャカかき鳴らしてますよね。
ああ、そうですね! フリッパーズ・ギターもカッティングがカッコ良かったな。六本木のインクスティックという小さなライブハウスで観たときから「センスいい人たちだなあ!」と思っていました。その当時の僕は、「ZAZOU(ザズー)」というバンド(後にCKBで活動を共にする廣石恵一、小野瀬雅生も在籍)を結成したばかり。まだやりたいことが上手く形にできず、メンバーにもうまく伝えられず、ボタンのかけ違いに始まって、ボタンのかけ違いに終わってしまいましたが。
──やりたい音楽のヴィジョンは頭の中にあったのですね。
’89年にロンドンに行ったんですよ。その時、ま、わかりやすくいうと、所謂、ブラン・ニュー・ヘヴィーズ的なバンドがクラブに出演してて、「うわ!こういうのやりたい!」って刺激を受けて来たんですね。でもバンドにはホーンセクションもいないし編成も全然違うし、追求すればするほど頓珍漢な感じになってしまったのがZAZOUでした。で、「CK’s」を翌年の91年に結成するんですけど、そこからは割と思うように進んでいきました。
──では、最後に一つお聞きしたいのですが、横山さんにとって「最も気持ちのいい時間」っていつですか?
朝ですね。愛犬チャド(チワワ)を散歩しているとき(笑)。だいたい、7時から9時の間に行くんですよ。最近ようやく涼しくなってきたけど、真夏は7時でも暑いから、もっと早い時間に連れ出します。眠いですが、最高に豊かな時間ですね。
好きな楽曲の条件を、「興奮するかどうか?」だと答えてくれた横山さん。「もっと知りたい」「秘密を暴きたい」という好奇心は、知的であるとともに非常に官能的であるということを筆者に教えてくれました。CKBの音楽がクールであると同時にセクシーなのは、横山さんの飽くなき知的好奇心によるところが大きいのかもしれません。
写真:杉江拓哉( TRON) 取材・文:黒田隆憲
横山剣さんオススメの曲
ブーツィーズ・ラバー・バンド 「Disciples Of Funk (The Return Of The Funkateers)」
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編集・構成 MOC(モック)編集部
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