今年10月に待望のサード・アルバム『DELICIOUS.』をリリースしたTWEEDEES。そのコンポーザーであり、ベーシストである沖井礼二さんに「大人が聴くべき3枚」をセレクトしてもらいました。
「自分を“形成”したアルバム」をテーマに掲げてくれた沖井さん。
前回は、そのうちの1枚であるスタイル・カウンシル『Our Favorite Shop』の魅力を徹底解説。
そして今回、YMO『SERVICE』に続いて紹介してくれるのは、一体どんなアルバムなのでしょう?
YMOのラストアルバム『SERVICE』は、音楽的役割はさておき「世代的に思い入れのあるYMO作品」ということになるんでしょうかね。
沖井さんと同い年である僕も、このアルバム大好きなんですよ(笑)。
やっぱり(笑)。
音がメチャクチャいいんですよね。
そうそう。
YMOというグループは、活動期間に3回くらい変化を遂げていて。
初期のテクノポップから『BGM』、『TECHNODELIC』でアブストラクト〜サイケへと進み、そこから『浮気な僕ら』では歌謡曲へ行くじゃない?
で、『SERVICE』もその歌謡曲路線で来るのかと思ったらまた全然違う方向へ進んでた。
当時の洋楽的な要素……例えばブラック・コンテンポラリーも入っているし、なんというか得体の知れないサウンドなんですよね。
しかも異常な完成度。
おそらく、本人たちはもうやる気がなかったんだと思います。
3人それぞれが「YMO」というアートフォームを使って、その時やりたかったことを「ただやっている」だけなんだろうな。
だからこその、完成度というか。
アルバムとしては、とっ散らかっているんですけどね。
しかも、曲間にはS.E.T.(スーパー・エキセントリック・シアター:三宅祐司率いるコント集団)のコントが挿入されています。
曲間にコントを入れるという手法は、『増殖』のときにスネークマン・ショーを起用してすでにやっているわけだから、いわゆる「二番煎じ」なんですけどね(笑)。
ただ、YMO本人たちがどの程度理解したか分からないけど、S.E.T.の毒を含んだ感じは、非常に80年代的だった。
スネークマン・ショーの「分かりやすいブラックユーモア」よりさらに進んで、「ブラックですらない“乾いた笑い”というか。
スネークマン・ショーの方が分かりやすい笑いでしたね。
だから、最初にS.E.T.を聞いたときは「これが東京の笑いなのか……」と思って怖かったんですよ。
正直よく分からなかった。
「何が面白いんだろう?」って。
「それ、知らんかっとってんちんとんしゃん」(コントの中のセリフ)と言われても……って感じでしたね。
いや、笑いましたけど(笑)。
そうか。
「これを笑わなきゃいけないのか、東京では」って思ってましたよ(笑)。
地方と東京の文化の差というものを、まざまざと見せつけられた最初の体験がS.E.T.だったし『SERVICE』だったのかも知れない。
というか、あのアルバムが「思春期の始まり」を象徴していたんでしょうね。
年中、半ズボンだったけど長ズボンを履くようになり(笑)、一人称が「僕」から「俺」に変わり。
どんどん趣味もひねくれていくわけだけど、その入口が『SERVICE』だった。
ほんと、まとまりはないけど珠玉の楽曲が詰まっているんですよね。
教授の「PERSPECTIVE」とか、YMO屈指の名曲だと思います。
あの曲は、教授がのちにソロでやる音楽に繋がっていますよね。
そういう意味でも、もうYMOには視線は向いていないのかも知れない。
最後に紹介してくださるのは?
今度はさらに5歳まで遡り、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』のサウンドトラックを紹介します(笑)。作曲は宮川奏先生。
「沖井さんがヤマト?」と、驚く方も大勢いるかも知れない。
5歳ですから、まだ物心もついていない頃ですよね。
当時、日曜の夜7時半から『宇宙戦艦ヤマト』というアニメ……当時は「アニメ」ではなく「テレビマンガ」と言われてました。
最初は父が観ていて、それで一緒になって観ていたらハマっていったんですよね。
特に、そのBGMに僕は夢中だった。
今になって思うと。
親にねだって、サウンドトラックを買ってもらって、もうほんっとうに何度も何度も繰り返し聴きましたね、お兄ちゃんと一緒に。
へえ!
僕の家の隣には、ピアノ教室をやっている叔母が住んでいたんですけど、「これいいレコードだから聞いて!」って言ったのを覚えてる(笑)。
おそらく、「この音楽が好き!」と能動的に思った最初の体験だと思う。
『宇宙戦艦ヤマト』か『トムとジェリー』で迷ったんですけど。
今にして思えば、『トムとジェリー』がジャズとの最初の出会いだったんですよね。
もちろん当時は、自分がこんな風に音楽を作る仕事に就くなんて思っていなかったし、単純に「ああいい曲だな」と思って聞いていたわけじゃないですか。
でもそれを穴が開くほど聴きまくっていた。
その後、聴き直してみたことはありましたか?
2001年くらいにボックスセットが出たので、その時久しぶりに聴いてみたんです。
それでビックリしたのは、アレンジの隅々まで頭の中に全てあった。
そのくらい聴き込んでいたし、僕が作ってきた音楽の中に、確実にヤマトの影響があるなと実感しましたね。
コード進行や、各楽器のフォーメーション……。
「あ、そうか。俺はここだったんだ」って気付かされました。
宮川泰先生の書かれたスコアこそが、自分の最も深いところにあるルーツなんですよね。
じゃあ、オープニングとエンディングというより、作中で流れているインスト曲が好きだったわけですね。
そうです。
サントラには主題歌も、エンディングテーマ曲「真赤なスカーフ」も入っていましたが、子供だった自分にとってそこはどうでもよかった(笑)。
今思うと、「真赤なスカーフ」もいい曲なんですけどね。
特に好きだった曲は?
「美しき大海を渡る」という曲。
ストリングスだけのヴァージョンなど色々あるんだけど、アルトフルートとローズピアノのアンサンブルがあって。それが僕の原風景だと思うな。
それにしても、たったの5歳でアニメのサントラ、しかもテーマソングでも何でもないインストを聴き込んでいる人ってあまりいないですよね?(笑)
でもね、あのサントラは1974年に作られていて、今ほどアニメ音楽に予算はなかったはずなんですよ。
だからオーケストラの編成も小さいしモノラルだし、おそらくテイクもそんなに重ねてない。
下手したらワンテイクでどんどん進めていたのかもしれないんですよ。
所々ミスっているのは、今は分かる。
へえ!
ただ、アレンジとしては当時のジャズファンクっぽいことを取り入れたり、おそらくヘッドアレンジで作っていたり、サントラとしては当時の最先端を目指していたことは、今の耳で聴けばわかるんです。
もちろん、当時5歳だった僕もおぼろげながら、そういう気持ちで宮川泰先生は作っておられたのでしょうね。
ちょっと前にツイッターで、「自分を構成する9枚」というハッシュタグが流行りましたけど、こうやってルーツに立ち返ってみるのは楽しいし、自分を知る作業にもなりますよね。
そう思います。
「大人ってなんだろう?」って考えた時、自分が何者か知っていることだったり、身の程をわきまえていることだったり、その上で自分が何をすべきかわかっているということだと僕は思うんですね。
そのためには、自分の歴史みたいなものにきちんと向き合う必要があるんじゃないかなと。
しかも、温かい目でね(笑)。
いかがでしたか?
沖井さんのルーツに『宇宙戦艦ヤマト』のサントラがあったとは、意外に思われる方も多かったことでしょう。
「大人になるとは、自分が何者であるかを知ること」と、最後に語ってくれた沖井さん。
私たちも一度、自分のルーツに立ち返ってアルバムを聴き直してみると、何か大切なことを思い出すかもしれませんね。
写真:杉江拓哉( TRON) 取材・文:黒田隆憲
YMO 「SERVICE」
宇宙戦艦ヤマト サントラメドレー
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編集・構成 MOC(モック)編集部
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