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大人とは、己を知ること。ポップ・マエストロ 沖井礼二(TWEEDEES)が選ぶ「自分を形成するアルバム」とは?【第1回】

 

清浦夏実さんと沖井礼二さんによるポップ・グループ、 TWEEDEES によるサード・アルバム『DELICIOUS.』がリリースされました。

前作『The Second Time Around』からおよそ 2 年ぶりとなる本作は、1 曲目から「TWEEDEES 流シューゲイズ・サウンド」ともいうべき新境地。

鼓膜を引き裂くようなノイズギターと、浮遊感たっぷりの甘美なメロディが降り注ぎます。

また、PIZZICATO FIVE の名曲「東京は夜の七時」のカヴァーを含む「Medley: 東京は夜の七時~21世紀の子供達」では、90年代の TOKYO が内包していた虚無感を、21 世紀に蘇らせるなど沖井さんのコンポーザーとしてのチャレンジ精神がそこかしこに散りばめられており、聴き手を飽きさせません。

清浦さんの、ボーカリストとしての表現力も飛躍的に向上し、TWEEDEES が新たなフェーズへ突入したことを高らかに宣言しています。

今回は、メイン・コンポーザー沖井さんに新作についてお聞きしつつ、「今、大人が聞くべきアルバム 3 枚」をセレクトしてもらいました。

 

沖井さんは、常々「ポップ・ミュージックはティーンのものだ」とおっしゃっていますが、来年 50 歳を迎える沖井さんは、自分の年齢とコンポーズについてはどんな風に思っていますか?

 

今の質問で思い出したんですけど、先日ツイッターを通して、学生時代の僕を知っている奴からコンタクトがあったんですよ。

TWEEDEES の新作『DELICIOUS.』を聴いて、「学生時代の沖井さんを見ているようだ」って言ってきたんですね。

もちろんそれは、「同じことをやっている」という意味ではなくて。

で、その意見を「面白いな」と思いつつ、言われて「なるほどね」と思うところもあって。

 

それはどういうことでしょう?

 

曲作りについてなのだけど、アマチュアの頃って「どうすれば自分の音楽が広く聞かれるのか?」みたいなこと、あまり考えずに作っているじゃない?

おそらく今回は、それに近い制作状況だったんだろうなって。

TWEEDEES のサード・アルバムを出すとなって、ファーストはこんな感じで、セカンドはそれを越えるために頑張って作った。

その間にミニアルバム『à la mode』を挟みつつ、サード・アルバムでは「バンドってこんな風に成長したんだよ」というのを見せなきゃいけないという気持ちがあって。

 

 

助走が終わって、ここからが本番みたいな。

 

Cymbals のサード・アルバム『sine』の時は、テクノロジーの進化に刺激を受けて「ちょっと新しいものを取り込んでみよう」と思った結果、テクノっぽいアプローチにも挑戦してみた。

でもTWEEDEESの『DELICIOUS.』では、もっと正攻法でそこを突破したいという気持ちが強くて。

そのためには、「人にどう聞かせるか?」という気持ちよりも、今の自分に素直になる以外にないなと思うようになったんですよね。

 

なるほど。

 

おそらくそのせいだと思うんだけど、自分の中で「作為」がありそうな要素はどんどん排除しながら曲を作るようになっていったんですね。

「ただただ、自分が驚きたい曲を作りたい」という思いのみ。

それって、ひょっとしたらプロにあるまじき姿勢なのかもそれないですけど(笑)。

 

 

そんなことはないと思います(笑)。

 

とにかく今回のアルバム制作は、僕にとって「物欲」に近い。

「こういうアルバムを聴きたい。

しかもそのアルバムは、なんとしてでも自分の手で作りたい」という。

だから、最初の質問に戻るんですけど、ある意味では子供っぽく自分はなってきているなと思うんです。

それに、自分は思っていた以上に「リスナー体質」だったんだなということに気づきましたね(笑)。

僕はスタジオに入るのが大好きで、アルバムを作るのがすごく好きだから、自分は「職人気質」だと思っていたんですけど。

実は、自分が聴きたいから作っているんだなって。

だからこそ、今回のアルバムは今も聴いていて楽しいし、『DELICIOUS.』ばかり聴いて仕事が手につかないくらいなんです(笑)。

 

自分が曲を作って聴かせたいと思っている「リスナー気質の自分」というのが、学生時代のまま残っているからこそ、今も「ティーンのためのポップ・ミュージック」が書けているということなんでしょうかね?

 

おそらく、一巡りしたんだと思う。

多くの人は、作曲家として次の段階、また次の段階とステップを踏んでいくのだろうけど、おそらく僕の場合は一巡りして、「聴きたい!」と思う音楽が固まった 10 代半ばくらいの感性が、「三つ子の魂百まで」だということに気づいちゃったんでしょうね。

実は、後ほど紹介するレコード 3 枚も、そういうテーマで持ってきたのだけれども。

 

 

音楽的に成熟すると、それによって失われるものもあると思っているのですが、沖井さんのおっしゃる「10 代半ばくらいの感性」というのは、成熟しながら一巡りしたものなのか、それとも変わらず「核」として持ち続けていたのか、どちらなのでしょうね。

 

ああ、なるほど。

それでいうと例えば 18 歳の沖井礼二が、2018 年にいたとしたら、そいつにがっかりされたくないっていう気持ちかもしれない。

子供の頃って、今の僕らくらいの年齢のやつのことなんて絶対信用していなかったじゃない?

むしろバカにしていたから、自分は目の前にいる 18 歳の僕にバカにされたくないのかも(笑)。

で、その「18 歳の沖井礼二」は、考えてみれば自分の中にずっといましたね。

Cymbals の頃から割と意識していたかな。

 

 

とても興味深いですね。

本作の中では「少年の見た夢は」という曲に、沖井さんの少年時代の思いが込められているように感じました。

 

この曲の歌詞は清浦との合作なのですが、彼女がとても気に入っているんですよね。

「青春映画を観ているようだ」と。

でも、こういう経験って、おそらく誰もがしていると思うんですよ。

僕は曲を書くときにたいていは風景が浮かんでいて、そこに BGM をつけるような感じがある。

で、この曲を書くときに思い描いた風景は、まさしく少年時代の自分自身だったのだと思いますね。

 

 

なるほど。

そして今作『DELICIOUS.』は、いつにも増してストレートですよね。

 

カッコつけたことはやりたくないなと思いましたね。

カッコつけること自体は悪いことだと思っていないんですけど、今作を作る上では「小洒落た皮肉」とか、そういうのは出来るだけ排除して、パンツ脱ぎ気味で自分をさらけ出しています(笑)。

サシで飲んでて深夜 2 時を回った頃の気分というか。

 

(笑)。

それは、最初に話してくださったようにサード・アルバムだからというのも関係していますか?

 

どうだろう……おそらく関係しているように思いますが、何より自分が今そういう強度のある作品を聴きたかったんでしょうね。

そのためには、自分に向き合わざるを得なくなる。

「TWEEDEES ってなんだ?」ということも、これまで以上に考えました。

 

いかがだったでしょうか。

第一部では、TWEEDEES の最新アルバム『DELICIOUS.』を紐解きながら、「コンポーザー沖井礼二の現在」に迫ってみました。

次回はさらにアルバムを掘り下げつつ、90 年代が内包していた特殊なムードについて、沖井さんならではの視点で語ってもらっています。

お楽しみに!

 

 

写真:杉江拓哉( TRON)   取材・文:黒田隆憲

 

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編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

沖井 礼二

作曲家/音楽プロデューサー/アレンジャー/ベーシスト。

1997年、土岐麻子、矢野博康を誘い”Cymbals”を結成。同グループを率い8枚のシングル、5枚のフルアルバム、3枚のミニアルバムのプロデュース、作詞・作曲・編曲、アート・ディレクションを担当。

2003年9月のCymbals解散以降は作・編曲家として多くのCM、ゲーム、アニメーション、テレビ番組等の音楽制作に携わる。イザベル・アンテナ、RYUTist、さくら学院、星野みちる、竹達彩奈、花澤香菜、尾崎由香、シティボーイズ公演、NHK「大!天才てれびくん」、バンドじゃないもん!(以上楽曲提供)、清 竜人25(編曲)、いきものがかり、ムッシュかまやつ、伊藤美来(以上ベース演奏)など多岐にわたる分野で活躍中。

2015年1月、清浦夏実(Vo.)との新バンド”TWEEDEES” を発表。

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