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ミスマッチでアンバランスなものにこそ色気は宿る CKB横山剣が「興奮」する曲とは? インタビュー【第1回】

 

デビュー20周年を迎えたクレイジーケンバンドが、前作『もうすっかりあれなんだよね』から3年ぶりとなるブランニュー・アルバム『GOING TO A GO-GO』をリリース。

とびきりファンキーなリズムに洗練されたメロディ、そしてどこかイナタイ昭和歌謡テイストが散りばめられたCKB節は、相変わらず健在です。

今回は、バンドのフロントマン横山剣さんに、アルバム制作のエピソードを伺いつつ「大人が今聴くべきオススメの楽曲」を3曲ピックアップしてもらいました。

 

──今作を作るにあたって何かコンセプトやテーマはありましたか?

 

いつもアルバムを作るときは、コンセプトやテーマよりも先にまず曲ありきで。

出来た順に、どんどん録音しているんですね。で、途中で何となく方向性が見えてくるというか。

今回は3年もアルバムを出してなかったから、とにかく「曲を書きたい欲求」がすごく強くて。

思いつくまま曲作りをしていたので、かなり支離滅裂な作品になる気がしていましたね(笑)。

でも、最終的には割といい感じでまとまったなって思います。

結構、ハワイやLA、パシフィック的なスメルを含んだ曲が多くなりましたね。最近、行ってないからな(笑)

 

 

──じゃあ、この3年の間はずっと曲作りをしていたのですか?

 

そうですね、曲はいつも勝手に浮かんでくるので、それを録音せず脳内に溜めておくんです。

その都度録音するとは限らないので、いつの間にか消えていく曲もあるんですけどね。

このアルバムに収録されているのは、昔から頭の中にあったものと、最近浮かんだものと両方あります。

例えば「山鳩ワルツ」という曲は、8歳の頃からサビのアイデアが頭の中にあって。

NHKの、『みんなのうた』に曲を書くことが決まった時に、その50年前の断片を引っ張り出してきて(笑)。

未完だった部分を仕上げてようやく世に出せたという感じです。

 

 

──あの曲、面白いですよね。

山鳩の鳴き声をモチーフにしようと思いついたのも8歳の時?

 

そうですよ。厳密に言えば、そこしかマトモに浮かんでなかったんですけどね(笑)。

残りは全て、今年に入って作りました。

 

──50年前の曲を、記録もせず温め続けていたことにも驚きます。

 

なんか覚えてたんですよね。

完全に忘れていた時期もあったんですけど、周期的にいいタイミングで思い出せた。

 

──横山さんは「作曲中毒者」としても知られていますが、基本的には毎日曲を作っているのですか?

 

そうなんですけど、「作ろう!」と思って1週間スタジオを押さえても、1曲も思い浮かばない時もありますよ。

むしろ車を運転中に浮かぶことが一番多いです。

 

 

──例えばアルバム・タイトル曲は、どのように出来上がったのですか?

 

これは、バンダ・ブラック・リオというブラジルのバンドの「Expressó Madureira」という曲が下敷きですね。

その曲のコード進行がメチャメチャ好きだったから、それをサンプルして。

CKBのバンドアレンジで、延々と繰り返しているうちに様々なメロディが浮かんできた。

それをまとめて仕上げています。

バンド・アンサンブル、ホーン・セクション、歌メロは原曲とは全く違うものになってますが、コード進行は「Expressó Madureira」とほぼ同一と言っていいいでしょう。

 

 

──「人力サンプリング」という感じですね。

 

そう。ネタがハッキリ分かるようなことを、敢えて生演奏でやることに意義があるというか。

元ネタを自分たちなりに消化して、次の世代に伝えていくことも大事なんじゃないかなと思うんです。

そういうアティチュードを、ヒップホップ・カルチャーから教えてもらった。

「レア・グルーヴ」の概念もそうですよね。

同じ曲でも、聴き方のセンスによって印象が変わってくるというか。

例えばJB’sのレコードを、僕らがリアルタイムで聴いていたのと、90年代当時に若いDJがクラブでかけるのでは、響き方がやはり違う。

「渋谷っぽい」とか「横浜っぽい」みたいな「色」も付くんですよね。

そういう考え方は、90年代以降に刷り込まれたかも知れないです。

 

──車にまつわる楽曲も多いですよね。

「ZZ」は曲名からしても車について歌ったものですし、他にもキャデラックやマスタングなど、車にまつわる曲が本当に多くて。

 

僕は6歳の時にカーレースの映画『グラン・プリ』を観て、それからずっとモータースポーツの虜なんです。

モータースポーツで活躍した車の市販車がとにかく好きで、モーターショーにも毎年必ず通い詰める子供でした。

その趣味は、今でも全く変わってないです。

 

 

──それって、音楽にも何かしら作用している部分はあると思います?

 

昭和40年代は、車とジャズ、或いはジャズ・ファンクやソフトロックが密接に結びついてましたね。

車のCM曲は映像も音楽もスタイリッシュだったんですよね。

それにとにかく憧れ自分でも作ってみたいと思って、車のデザインを自分で考えてオリジナルCMソングまで勝手に作ったりして(笑)。

CMに出演する人のキャスティングまで勝手に練って、それを企画書に落とし込み、銀座の日産ギャラリーへ持ち込んだこともありますよ。

受付のキレイな女性に、「これ、見てもらえませんか?」って。

 

──凄すぎるエピソードです……!(笑) 

 

後からステッカーが送られてきましたね。

直接の返事はなかったんですけど、「完全無視」ではなかったんだなと思って嬉しかったですね。

 

 

──その頃からクリエイティヴな方だったのですね。

本当に様々なスタイルの楽曲が並んでいますが、例えばレゲエナンバー「SOUL 痛 SOUL」はどんな風に作ったのですか?

 

この曲は、Mighty Crownという、日本よりもむしろ海外で名の知れたレゲエチームが本牧にいるんです。

彼らがジャマイカで録ってきたリズムトラックを、僕にプレゼントしてくれたので、その上にCKBのヴォーカル・チームのメロディと歌詞、演奏チームのサウンドを重ねて仕上げた共作なんですよね。

僕も本牧に住んでいるので、ご近所同士だったからこそ成立したコラボといえるのかも。

 

──楽曲によって、作り方もまちまちなんですね。

 

そうなんです。

トラックから作っていくパターンもあれば、弾き語りから少しずつ形にしていく古典的な曲作りのパターンもありますね。

 

 

──それと、今回はサウダージ感がありますよね。

軽快なドライブ・ミュージックである一方、切なさみたいなものも色濃く漂っています。

 

最初に話したように、アルバムのコンセプトはなかったんですけど、今回CKBが20周年という節目の年だということは意識していて。

「終わりの始まり」というか、バンドも人生も後半戦に入って「黄昏感」が出たのかなと思いますね。

とはいえ、僕らの上には加山雄三さんも、ブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブの面々もいらっしゃいますから。

僕が今から20年やっても78歳でしょ。まだまだ若造だし、しばらくはチンピラ気分でいられるかなと

 

──(笑)。

 

地元の先輩で、SKA-9というスカバンドのCHIBOWさん(71歳!)という伝説のロッカーがいるんです。

その人も僕のお手本ですし、後輩にはさっき話したMighty Crownもいるし。上から下から刺激をもらっている状態です。

 

 

──横山さんが、常に現役でいる秘訣は何かありますか?

 

うーん、そうですね……「新しいものを否定しない」ということですかね。

年を取ってくると、否定から入るようになる人って結構多くなるんですよ。

もちろん、なんでも肯定すればいいというものではないけれど、「否定から入るのは勿体無いんじゃないかな?」とは思います。

なんでも試してから判断したい。

僕自身も日本武道館で演奏するまでは、「あんなところ音も良くないし、演奏なんかしたって楽しくないでしょ」みたいに偏見持ってたんですけど、実際にやってみたらめちゃめちゃ音が良くて楽しかったですから。

 

デビューから20年経った今も、常にシーンの最前線を走り続けるCKB。

そのパワフルな原動力は、子供の頃から全く変わらない横山さんの「ヤンチャな好奇心」があってこそなのでしょう。

次回はいよいよ、横山さんオススメの楽曲を紹介します。

 

写真:杉江拓哉( TRON)   取材・文:黒田隆憲

 

 

 

ミスマッチでアンバランスなものにこそ色気は宿る CKB横山剣が「興奮」する曲とは? インタビュー【第2回】

 

ミスマッチでアンバランスなものにこそ色気は宿る CKB横山剣が「興奮」する曲とは? インタビュー【第3回】

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
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PROFILE

横山 剣

1960年生まれ。1997年クレイジーケンバンドを発足、2009年メジャーデビュー。2017年結成20周年を迎え、「ALL TIME BEST ALBUM“愛の世界”」を発表。今年、デビュー20周年を迎え3年ぶりとなるブランニュー・アルバム『GOING TO A GO-GO』をリリース。

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