理想的なアラフィフ像として、「太っていない・不潔じゃない・老けていない」という3つのNGが浸透している昨今。
ですが大事なものがもうひとつ。
「不幸せじゃない」ことだとは思いませんか?
外見ばかりが重要なのではありません。
こころ、メンタルヘルスも中高年がチェックすべきポイントです。
ストレス、適応障害、格差社会。
多くの企業の産業医として40年以上従事してきた夏目誠先生に、人生100年時代のメンタルヘルスの考え方を伺ってきました。
中高年のメンタルヘルスに関して専門的に語っている本、というとあまり見かけませんね。
人生が一番しんどい中高年に対する本が、意外と出版されていませんね。
体に関する本はたくさん出ているでしょう。
でもメンタルに関しては少ない。
中高年が一番しんどい、というのは?
実は「メンタルが一番しんどくなるのが中高年」というのが僕の意見です。
大きな病気というわけではないですよ。
軽い鬱であったり適応がうまくいかなかったり、そういうのが多いんじゃないかな。
中高年の女性の場合は、親の介護や子供の受験勉強です。
男性だと自分の昇格やリストラ、出向もこの年代に多いですね。
50歳前後になると会社から「よそに行きなさい」と言われる。
突然、新しい仕事と環境がやってくるわけです。人生の節目にもなります。
夏目先生の「ストレス点数表」は、どんなライフイベントが発生したかによって点数を加算し、ストレス度を数値化するものですね。
給料アップなど一見するとポジティブな出来事も加算対象なのが、面白いですし「なるほど確かに」と納得でした。
私は300点越え……。
マスコミ関係は多忙ですから、全体的に点数は高くなる傾向がありますよ。
関西のテレビ番組『そこまで言って委員会』でテストをしてもらったら、300点以上超えている人ばかり。
ただし、ああいった番組に出る人はエネルギーもパワーもあって自分で乗り越えられる人たちです。
だからテレビ業界でも生き残っていけるのでしょうね。
職種や業界で差が出たり、結果に特徴があらわれますか?
かなり差がありますよ。
意外なのが、営業職はダウンする人が少ない。
しんどそうにみえるのですけれどね。
外回りで一日に何十件、成果が数字として比較される、など営業職はストレスが強くかかってきそうなイメージがあります。
なぜ営業職はメンタルが強い傾向がみられるのでしょう。
一番わかりやすい言い方ですと、知能指数(IQ)と社会を生き抜く知能指数(SQ、EQ)。
このギャップが大きい人ほどダウンしやすいといえます。
・IQ(知能指数)
・EQ(心の知能指数)
・SQ(社会的知性)
知的能力が高いけど、社会的IQが低いとギャップが大きくなります。
研究者や大学の教授などはギャップが大きい傾向がみられます。
比較して営業マンはギャップが小さい。
IQより社会的IQが高くないと、特に中高年はしんどくなります。
加えて体力も大きな要素です。
頭がよかったとしても、体力がない人は病気してダウンしてしまいますから。
会社で最後まで残る人は体力がある人ですね。
ほかに高めておきたい能力は何がありますか?
コミュニケーション能力です。
この能力が高ければ、さらに上にいけます。
現代社会は、サービス業全盛の時代。
女性はコミュニケーション能力がすごく高いので、会社で上に行きやすいでしょう。
男性はというと、工業社会が一番いいんです。
ところが脱工業化社会になりましたから、男性にとって生きづらいといえます。
社会構造がそういった影響を与えるんですね。
社会変動ですね。
社会変動が小さくて安定していると男性は生きやすいです。
しかし現代は社会変動が大きくて脱工業化してきました。
現代社会は、男性にとって生きづらいんです。
特にアラフィフ以上の男性にとって向かい風ですね。
口下手でコミュニケーションが不足しがちな人、と言われて頭に浮かぶのは中高年の男性かも……。
男性で口が上手い人は数が限られています。
半分ジョークですが、「女を口説ける男は営業トップになれる」と言われていますね。
性別が違う相手を満足させられる人物は、同性の上司が何を考えているかよくわかる。
何を欲しがっているかわかる。
だからぴったりなものを相手に提供できて物が売れるという考えです。
使い古された言い回しではありますが、使われてきた分の歴史があります。
夏目先生は産業医として数多くの一般企業を訪れ、たくさんの相談を受けてこられましたね。
僕は、11社で産業医をやってきました。
公務員も民間企業の社員も診てきた産業医は珍しいんですよ。
省庁、警察、メーカー、IT企業などでも診てきました。
メンタルの変調は、会社によって違ってきます。
産業医は、会社ごとに考えていかないといかんですね。
午前中はマスコミ系企業に行き、午後は金融という日もありました。
そうすると頭の切り替えが大変なんですよ。
午前のマスコミはテンションが高いけれど、銀行は低め。
業界によってギャップがあるのをすごく感じました。
職場によって、社員の雰囲気がまったく異なるんですね。
よく耳にするようになった「適応障害」のヒントがありそうです。
皆さんね、自分の会社しか知らない人が多いでしょう。
たとえばテレビ局と銀行を例にしてみてください。
テレビ局のメンタルで、銀行でも同じように仕事していたら、ミスばっかりしてしまいます。
ところが銀行員をテレビ局に連れてきても、面白い番組はなかなか作れません。
リスクを避けるのが銀行員ですが、リスクを取ってでも面白いことをするのがテレビ局です。
会社の特徴が違うように、所属する人間も染まってくるといいますか、業界ごとに性格やノリにも特徴が出てくるのはなぜでしょう。
その会社に入る素因が違うのでしょうね。
テレビ局の面接では、個性があったり面白い人が好まれます。
銀行では個性や面白さは関係ありません。
きちんとリスクを避けてルールを守る人間が求められます。
今まで診てきたなかでは、テレビ局の人はよく笑いますけど、銀行の人は笑顔が少ない傾向がありましたね。
笑顔の少なさ!
自分では気づけないかもしれませんね。
ところで、よく笑う人の方がストレスは少ないのでしょうか。
心の底から笑っていれば、ですね。
テレビ番組でお笑い芸人に人気があるのは、笑うことによってリラックスできるからだと思いますよ。
笑いがとれる人は社会にとって大事でしょうね。
ストレスの増減には、どんな要因が絡んでいると感じますか?
バブル前後は違います。
「それいけどんどん」の頃はストレスが少なかった。
忙しいし疲れるけど給料も上がりますから。
ところが、バブルが弾けたあとの「失われた10年」はストレスが大きい。
現代人の疲れは、労働密度の高さによるものでしょう。
仕事量などもですが、僕らの時代より「ミスしてはいけない」と言われていると感じます。
誰かがミスすると、会社はその人を百叩き。
言いたいことを言えなくなっていませんか。
昔と現代の違い、というと景気がよいか悪いかでしょうか。
ほかの違いというと?
雑談、それから仕事以外のことですね。
雑談を話せて、ある程度ほかのこともできる職場だった、という時代の人は仕事をしてもそこまで疲れません。
現代は朝から晩まで黙々と仕事をするでしょう。そりゃ疲れますよ。
昔は会社で将棋を指す、とかよくありましたもんね。
リストラや出向など退職や配置転換も中高年のストレス要因ということですが、会社の人事も組織内に変動を巻き起こしそう……。
人事に関して、将来はAIで(意思決定)するんじゃないかと思える方法をとる企業が増えていますね。
理詰めで決定するような、有無を言わせる余地のないような辞令があるかもですね。
だけど、そもそも「答え」ってないものなんですよ。
答えがないのに「答えがあるはず」という方法で取り組むからおかしくなる。
物事の見方なんて、人によってさまざまです。
しかし、このことをわかっていない企業はありますね。
10年ほど前、大手メーカーから講演依頼を受けました。
講演で会社を訪れるといろいろな資料を見せてくれるのですが、社員の学歴一覧表を見せられました。
名を連ねるのは、東大、京大、東工大、一橋阪大、早稲田、慶應。
それ以外の大学はあまりなかったのです。
一流会社は一流の人間を集めるものなのか、と最初は感心しました。
ところが講演会が5年続き、学歴一覧表を毎年見せてもらっているうちに、「この会社は大丈夫なのか」と不安がよぎったのです。
不安?
なぜいろいろな大学から人を採用しないのか。
なぜ会社を一色に染め上げようとするのか。
人材が偏っていることは、企業の弱みになりえます。
実際に、そのメーカーは経営がうまくいかなくなったあと、軌道修正ができずに他社に吸収されてしまいました。
メーカーの方は、商品がよければ売れると思っているかもしれません。
しかし営業がしっかりできていないと売れない。
商品のアイデアは悪くなくても、商品化して採算化するには営業力が必要です。
営業を上手くできる人がいないと、会社はやっていけません。
社会的IQが高く、体力、コミュニケーション能力を備えた人材を確保しないと。
そして営業職は秀才である必要はなくていい。
営業ができる人間は、相手の気持ちを汲み取って頭を下げられる人間です。
高学歴一色の会社では、ここがうまくいきません。
「2-6-2の法則」が知られていますね。
社内の人材のうち2割は優秀、6割は普通、2割は落ちこぼれという比率に着目しています。
しかし、優秀な2割のなかでも、「2-6-2」に分かれてくるんですよ。
ですから優秀な人材ばかり集めてもしょうがない。
企業は幅広く人材を採用しなければ生き残っていけません。
たとえば何らかの社会変動によって会社がガラッと変わらざるを得ないときに、落ちこぼれとみなされていた2割の人材が活躍することがありますよ。
人生100年時代は、答えのない時代といえます。
多様性を確保し、変化に対応できるフレキシブルな組織づくりが求められますね。
皆さん、東大出身を尊敬するのをやめませんか?
答えがある問題を解けるのが東大生です。
しかし世の中に出たら、答えのない問題を解かなければいけません。
老子の「無用の用」という言葉があります。
一見無用に見えるけれど非常に重要である、という意味ですね。
そのひとつが雑談でしょう。現代の多くの職場では雑談をカットしてしまっています。
雑談を重視しているのが、アメリカのグーグル。
コーヒーコーナーを社内にたくさん設置して雑談を確保しています。
そこではいろいろな社員が集まって雑談をし、アイデアが生まれることがあるようです。
人間関係構築にも役立ちますから、仕事がスムーズに進みます。
雑談がない会社は、人間関係がギクシャクしてしまいがちではありませんか。
伸びていく企業は一見無駄と思われることをやっていますね。
今は落ちこぼれに見える2割の人材には、これから役立つ可能性があります。
アウトローとうまく会話でき、会社の外に人脈を持っている、こういう人材が会社を助けてくれるんですよ。
「俺なんか」「私なんか」と下を向いている人こそ、自分の可能性を信じて前を見てほしいもの。
そのためにもメンタルヘルスを整えることが大切です。
心が辛い原因を考えてみたとき、社会的IQや人とのコミュニケーションについて振り返ってみてはいかがでしょう。
第二回インタビューでは、感情と理屈のバランスの取り方、答えのない世界の生き方などを夏目先生にアドバイスしていただきます。
写真:横山君絵 文:MOC編集部
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編集・構成 MOC(モック)編集部
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