オレオレ詐欺をはじめとする特殊詐欺への対策についてお話を伺うインタビューも第三回目となりました。
取材当日、MOC編集部は移動中の駅ホーム電光掲示板に警視庁による詐欺根絶のメッセージが流れているのを発見。
「こんなところにも啓発活動が……!」とハッとさせられましたが、最近の警視庁ではさらに驚きの対策を講じているのだそう。
警視庁犯罪抑止対策本部の山上さんと三木さんによると「特殊詐欺根絶アクションプログラム・東京」では、若い世代にも特殊詐欺の実態に興味を持ってもらえるような試みをしているということで、その意気込みを聞いてきました。
警視庁では「みんなでSTOP! 特殊詐欺」をスローガンにさまざまな方法で注意喚起を促していますよね。
高齢者に対してのみ注意喚起をするのでは、対策として足りないと考えました。
子世代、孫世代にも特殊詐欺をしっかりと知ってもらい「みんなで詐欺を防ごう! 家族を詐欺から守ろう!」という認識が浸透していくように啓発活動をしていく予定です。
最近は動画配信を啓発活動の一環にしています。
1分動画でさらっと見れますので、特殊詐欺について知ってもらういいきっかけになればと思っているんです。
特に若い世代の方に興味を持ってもらいたいですね。
警視庁「みんなでSTOP! 特殊詐欺 にゃんこシリーズ第四弾(にゃんこ と対策)」
警視庁「おとぎ話 桃太郎がオレオレ詐欺の手口を紹介するよ!」
かわいさと脱力感がありますね、犯罪抑止というと「撲滅!」「根絶!」という強めのプレッシャーが従来は感じられましたが、にゃんこ見たさに動画を再生する……というのも「防犯に興味を持つきっかけとしてウェルカム!」ということですね。
これからもいろいろなバージョンを発信していきます。
こういった動画は「シンプルにわかりやすく」を基本にして製作していますが、ユーモアを交えた内容を目指しているんです。
警視庁の若手の意見も取り入れられ、対策の幅が広がっています。
動画はまさにそういったことのあらわれかと思います。
警視庁による対策がこんなにバラエティ豊かだとは驚き。
MOCでは以前に警視庁災害対策課のTwitterについて取材しましたが、そちらも課員の方の個性を活かした啓発活動がされていました。
警視庁では「特殊詐欺根絶アクションプログラム・東京」を進めています。
プロジェクトの一環として犯人の声を公開していますので、是非聞いてみてください。
実際の騙り口や誘導のやり方などを聞いてみてほしいです。
警視庁HP「あなたは見破れますか? 振り込め詐欺のテクニック」再現音声付
「会社の金で株に手を出して失敗 横領で訴えられる 助けて!」
50歳代女性方に、息子を装った者から
「今日、会社に監査が入る。
監査前にお金を戻せば何とかなる。
宅急便が家に向かう。」
との連絡。
その後、言葉巧みに焦らせ、現金300万円を騙し取ろうとした事例です。
「俺の責任だ! 今日中に会社の取引先にお金を支払わなければならない」
60歳代女性方に、息子を装った者から「電車の中で鞄をなくした」との連絡。
その後、信用させるために、駅員役、会社の上司役など複数の者が電話をかけ、現金700万円を騙し取ろうとした事例です。
「誰にも言わないで 不倫相手を妊娠させた 示談金を何とかして!」
60歳代女性方に、息子を装った者から
「子どもができちゃった。
相手は旦那さんがいる人で、旦那さんが怒っている。
弁護士に入ってもらった。
お金を送って欲しい。」
との連絡。
その後、示談金として100万円を騙し取ろうとした事例です。
以上は、再現音声です。
実際の振り込め詐欺は、さらに執拗です。
ここからは、実録の音声をお聴きください。
友人の連帯保証人となった
60歳代女性方に息子を装って現金200万円を騙し取ろうと、数回にわたり電話をかけましたが、未遂に終わった事例です。
犯人は電話で
「友人が起業するにあたって連帯保証人となった。
その会社が業績悪化のため友人は夜逃げし、金が必要になった。」
旨申し向け、現金200万円を騙し取ろうとしたものです。
荻窪案件・・・被害総額 3,000万円
低い声で関西弁風の声色を使って脅すような話し方で被害者を不安に陥れ、現金を騙し取った事例です。
(電話を受けているのは被害者の会社の女性従業員です。)
犯人は電話で「過去の通信教育受講料が未払いになっている」と言い、「遅延損害金」「供託金」等の名目で約3,000万円を騙し取っています。
この事件では、犯人は関西弁だけでなく関東風の声色を使って法律事務所の職員を演じていました。
(録音は関西弁風の声色を使っているときのものです)
静岡案件・・・被害総額 0円(未遂)
未亡人である被害者宅に「イタショウのユイ」と名乗る男から「夫が生前していた借金を支払え」といった電話が入ります。
更にその後「キョウワのナガセ」という男から電話があり、
「イタショウから債権を譲り受けた。
法律的に取り立てる立場にあるので95万6,400円振り込め。」
と言われます。
しかし被害者が弁護士に相談したため、振り込まずに済みました。
(録音は、「キョウワのナガセ」と名乗っているときのものです)
おぉ~! 実際の声を聞いてみると、普通の何気ない電話としてあり得そうで恐ろしいですね。
スッと懐に入り、お金を騙し取る。
その実例が公開されているなんて知りませんでした。
被害者のうち約8割が「自分は騙されない」「見破ることができる」と思っていたんです。
ところが警戒心のないまま電話に出てしまい、財産を奪われてしまいました。
電話の途中で「おかしいな」と感じるのですが、詐欺に遭っている疑いを抱けず、最終的にお金を取られてしまう。
犯人側が用意する切り口はさまざまですが根本は同じ。
電話を切り口にして偽の情報を騙り、現金やキャッシュカードを騙し取るんです。
特殊詐欺は「非対面・非接触型」で極めて悪質な犯罪悪質です。
被害を1件でも減らすために、アクションプログラム東京や動画配信、戸別訪問での注意喚起などの対策を講じています。
認知件数の増加の背景には、詐欺グループの増大・拡大があるのでしょうか。
詐欺グループの実態を調べたことがあり、少数化しつつ多様化しているのではないかと分析しています。
組織構造は少しずつ解明へ向かっていますが、暴力団の関与がある場合が大部分でしょう。
今までは違ったかたちで収入を得ていた暴力団が、詐欺による収入の割合を増やしているのかもしれません。
2018年10月初旬に六代目山口組の幹部にまで捜査を踏み込ませることができました。
突き上げ捜査で背後にいる暴力団に辿り着いたのです。
首謀者を逮捕するのはかなりレアなケースで、実際に検挙されているのは受け子が多いんですよね。
10代~20代の受け子が検挙人員の割合を大きく占め、特殊詐欺に手を染めた若者が前科ありになってしまう現実があるのだとか。
受け子は末端の人間に過ぎません。
受け子のほか、「架け子」という詐欺電話を実際にかける役割もいます。
受け子や架け子を中心に検挙していますが、詐欺グループは複雑に階層化されています。
情報が漏れないように徹底的に統制されていて、受け子や架け子がリクルート役より上の人間に会ったことがない場合が多く、詐欺グループのトップまでたどり着くのは難しいんです。
詐欺罪はどのような罪に問われるのでしょう。
10年以下の懲役ですね。
特殊詐欺本犯:年代別検挙人員
MOC読者に多い50代はまさに板挟みの年齢。
親世代(70~80代)が被害者になり、子世代(10~20代)が加害者になりうる。
悩ましいものです。
そうですね。
ターゲットになりやすい世代のみならず、幅広い年代の方に特殊詐欺の実情を知ってもらわなければと考えています。
「お金をもらえるならなんでもやります」という若者や暮らしに困っている人が、受け子・架け子になるということがあります。
いわゆる闇求人がインターネット上に存在していますし、詐欺グループのリクルート役が犯行のための人材を探しています。
少数精鋭化する詐欺グループに対し、切り捨てられる末端の受け子、架け子。
食う食われるの構図が詐欺グループ内にもあるんですね。
実際に被害に遭った方ですと、固定電話を撤去することが少なくありません。
固定電話が視界に入るだけで事件のことを思い出してしまい、怖くなってしまう方もいらっしゃいました。
固定電話と携帯電話を併用している人もいらっしゃいます。
携帯電話だと画面を見て、誰からかかってきたか確認してから応対するのが自然になっていますよね。
ところが固定電話のコールが鳴ると「出なきゃ!」と受話器をとってしまう傾向が高いようです。
インタビュー第一回で犯行予兆電話として「平日、昼間、固定電話」の三拍子が揃うと、特殊詐欺の危険性が高いとお話しいただきました。
それでは携帯電話に詐欺電話がかかってくることはあまりないのでしょうか?
あることはあるのですが、特異なケースだといえます。
ただし最近、30~40代の女性を狙った携帯電話での特殊詐欺が発生しています。
近年発生! 検察庁ホームページの偽サイト詐欺
電話に出ると、相手は検察庁職員だと名乗る。
- 偽検察「あなたは事件に巻き込まれています。検察庁のホームページにアクセスしてください」
- アクサス先の偽サイトはホンモノとほぼ同じ作り!
- 偽検察「あなたは事件に巻き込まれています。画面上の『事件調査中』ボタンをクリックしてください」
- クリックすると、自分の名前が参考人として表示される!
- 偽検察「この件に関して〇〇万円の示談金を払えば大丈夫です」
検察庁ホームページでも偽サイトについて注意喚起を促しています。
http://www.kensatsu.go.jp/page1000008.html
電話にハガキ、偽サイト。
切り口はさまざまですが行き着くところは「お金」ですね。
話術に用いられることの多いひっかけキーワードをお聞きしました。
騙しのキーワード
- 訴訟のため示談金を支払ってください
- あなたは事件に巻き込まれている
- お金が戻ってきます
- キャッシュカードを受取に行きます
- 省庁から届いたハガキ
知っておくべき本当のこと
- 還付金はATMでは返還されない
- 省庁などからの正式な文書は書留で送られる
法務省からのハガキを装うパターンですが、こういった文書は本来、普通郵便では郵送されないような……?
そうなんです。
正式な書類は書留で送られ、本人確認が必須となります。
ところが裁判所や省庁などの権威に弱いというのも、付け込まれやすい心理の落とし穴ですね。
ハガキに書かれた言葉を『裁判所から届いたものだから』と信じてしまうんです。
架空請求で多いのは「料金未納のため支払いが必要」という切り口ですが、「訴訟しますよ」「このことをあなた(もしくは配偶者など家族)が勤めている会社にバラします」と言われたら、『どうしよう』と思い悩み、お金を支払ってしまうこともあります。
ハガキによる特殊詐欺「警視庁「みんなでSTOP! 特殊詐欺 にゃんこシリーズ第三弾(にゃんこ VS ハガキ)」
大ごとにしたくない、人に知られたくない、という気持ちを利用されてしまうんですね。
こういうとき、誰に相談するのがよいのでしょう。
最寄りの警察署に相談するのが一番のおすすめですが、110番通報していただいて大丈夫です。
けれど皆さんからすると110番はハードルが高いようですね。
怪しい場面に遭遇してもなかなかかけづらい、というのはあると思います。
警察相談専用電話「#9110(シャープきゅういちいちまる)」をご存知ですか?
110番通報は緊急性の高い事件や事故に対応するためのものですが、こちらは相談の窓口です。
変なハガキが届いたり怪しい電話がかかってきたら、是非ご利用ください。
怪しいなと思ったときの相談先
- 地元の警察に相談
- 「#9110」の警察相談専用電話に連絡
- 緊急性が高いなら遠慮せずに「110番」!
110番にかけたあとの流れも教えていただけますか?
その後の展開がわからないと「どんなことをするか不安だし、面倒くさいかも」と相談を思いとどまってしまいそうです。
110番通報がありましたら、警察が即対応します。
ご自宅や現場に向かいますので、起きた出来事を説明していただきます。
お話しを伺いながら、とるべき対策やアドバイスをすることもありますよ。
また、110番がどこから発信されたかは地域の警察が共有し、情報として把握します。
蓄積された情報のおかげで二次被害を防ぐことが可能になりますので、不審なことがあったら警察にすぐ連連絡してください!
警察の方々の捜査のためにも、市民一体となって協力していくことが特殊詐欺防止の大きな力になるんですね。
検挙率は上がっているんですが、認知件数も増えているのが悔しい状況です。
コツコツと老後の資金や孫のために貯めておいた蓄えを騙し取られてしまい、人生が一変した方もいらっしゃいます。
何十年も貯めてきた大切なお金を奪った犯人を逮捕し、これからの犯罪も未然に防ぎたい一心です。
警視庁では特殊詐欺を重要課題のひとつとして捉え、各部署との連携に重点を置き、横断的に特殊詐欺対策プロジェクトを進めています。
警察官が一軒一軒、お宅を訪問し詐欺被害の防止に有効な電話設定をすすめることもあります。
地道な活動ですがこういったことが犯罪抑止につながるのだと考えています。
警視庁「あなたならどちらを選びますか?」
今回の取材を通して「自分は騙されるはずがない」という思い込みをなくし「みんなを詐欺から守ろう」へと意識を変えていくのが必要なんだと痛感しました。
是非、犯罪抑止対策本部のツイッターや特殊詐欺根絶アクションプログラム・東京で動画をご覧ください。
皆さんの身の回りで不審な出来事が起きていたら教えてほしいのです。
そういったことも重要な情報になります。
詐欺はお金だけでなく、人生の楽しみも奪います。
自分自身や大切な人を守るためにも、特殊詐欺について関心を抱いてください。
警視庁もこれから一層、犯罪抑止、啓発活動に力を入れていきます!
一生懸命働いて得たお金をあっという間に騙し取る特殊詐欺。
その犯罪組織は決して生易しいものではありません。
あなたや私たちにとって大切な人がいつ被害者になるかわからない時代がきてしまっているのです。
しかし警視庁犯罪抑止対策本部の皆さんをはじめ、市民一体となって詐欺グループの犯行に歯止めをかけることができます。
こまめに連絡をとる、電話を買い替える、不安げな人に声をかける……。
できることはたくさんあります。
「みんなでSTOP! 特殊詐欺」を胸に、私たちが共に生きる社会を守りましょう!
写真:田形千紘 文:鈴木舞
編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
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