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「人生のハンドルを自分で握る意識を持とう!」小屋一雄 氏 インタビュー【第2回】

 

「シニアの品格」の著者・小屋一雄さん。小屋さん自身は、複数の企業を経験し、著作に至るまでの思いを形成してきた。

大企業特有の伝統に感じた焦燥、そして海外に飛び出し、働く中で感じたさまざまな思い──

小屋さん自身が、多くの企業文化を経験してきた自分の人生を振り返る。

 

──「シニアの品格」を拝読すると、小屋さんなりの組織に対する哲学があるのではと感じました。

小屋さんはどのような職業人生を歩んでこられたのですか?

 

私が最初に入社した会社は、三菱自動車でした。

私が入社した当時は、社歴の中で一番勢いがあって良いときでした。

パジェロ、ギャラン、ディアマンテ……。出す車出す車売れる時代でした。

でも数年後には不祥事が明るみになって社会問題となりました。

当社に限った事では無いと思うけれど、大企業特有の思考停止があったんですね。

さまざまな不祥事が明らかになる中で、組織ぐるみでリコール情報を隠したというのが世間の信用を一番失った事件でした。

その時にはもう私は退職していたのですが。

働いている人たちはみな紳士的で、優秀だったのですが、社員の意識の中でも、何か違和感があっても「仕事なんだからいいか」という思考停止があったのだろうと思います。

「どう考えてもこれは反社会的じゃないの」と思っても、上から言われたことなんだからやるしかない、という風潮がいろいろなところにあったんじゃないでしょうか。

「システムとしての組織」と「個としての自分」というものを切り離せない、という傾向は私がいた時からあったと思います。

私はそういう組織風土にどうしてもなじめず、このままここに一生いるのは嫌だなと思って、留学をすることに決めたのです。

留学をしてMBAを取得して、元の会社に戻る選択もありましたが、結局戻りませんでした。

同僚や友人からは、「一生安泰でいられるのに、辞めるなんて馬鹿だ」と言われたんです。

私は、退職することにリスクあるのは重々分かっていたけれど、私のような人間にとってはずっといるリスクの方が大きいような気がしていました。

そのうちに、前述の事件なども明るみになって、友人たちは今度は「辞めて良かったな、英断だった」なんて言ってきました。勝手なものです(笑)

「変わらず安泰であること」は良いことで「変化を強いられること」は悪いことだという価値観を持っている人が多いようですね。

私は、何より大切なことは、自分の頭で考えて自分で決断していくということだと思うのですが。

 

 

 

企業に根強く存在し続ける勘違い

──働くにあたり、企業の安泰よりは、個人のそういった意識が結局は人生のリスクヘッジに繋がるということでしょうか。

 

もちろん、大企業に勤めるということは、人生の安定を図ろうとするならば多くの人にとって有効ですし、自分の息子が大企業に勤めたいと言ったら、特に反対はしないです。

いろんなことが経験できて、大企業ならではの学びも多くあります。

実際、私も大企業で働いた経験に大いに助けられました。

ただ、大企業勤めの良い面と悪い面があって、悪い面は組織と自分がごっちゃになって変なプライドを持って思考停止になってしまうというところです。

「有名な○○会社に勤めている俺はすごい人間なんだ」と。思考停止と組織への誇りとは違うと思うんです。

1950年代にゼネラル・モーターズ(GM)の社長チャールズ・ウィルソンが、「GMにいとって良いことはアメリカに良いことだ」と言ったことがあるんです。

つまりこの会社がビジネスをする上でやっていることはそれがなんであれ社会にとっていいことだと言い切ったんです。

これは、大きな勘違いです。これは典型的な大企業病ですよね。良いこと悪いことというのは、やはりその都度自分で考えないといけないですね。

もちろん答えの出ないものもありますけれど、思考停止になってしまっては何も生まれない。

「シニアの品格」で奥野老人に出会わなかったら東条さんもそんな残念なシニアになっていたと思います。

「○○社の役員です」としか自分を語れない人間になっていたかもしれません。

そうやって肩書きを誇るだけで定年まで勤め上げることができても、その後の老後が問題になります。

いつまでも過去の経歴でいばっている人と仲良くしたい人はいないですよね。

そして周囲と繋がりを持てないままだと被害者意識が高まって、自棄になってしまうかもしれません。

でも、私が出会った「人生の上級者」たちは、自分がどんな「組織」にいようが自分自身は弱い存在であり、弱くて小さいからこそ常に変化していかなければならないのだと考えたようでした。

これが「人生の上級者」になる第一条件かもしれません。

 

 

 

レールを外れた人生の生き抜き方

──小屋さんの経歴を拝見すると、外資系企業にヘッドハンティングをされて、海外経験も豊富で、いわゆるエリートの人生を歩まれてきたんだなという印象を受けます。

そんな方がなぜ組織の中でもがいている人たちに目を向け、その彼らの変容に携わるようになったのか非常に興味があります。

 

私はエリートなんかじゃないです、まったく(笑)。

ひとつの会社に何十年も長く勤め挙げたわけでもなく、思うように仕事になじめず短期間で退職してしまったこともあります。

同じ企業に3回出戻りをしたこともあります。それって結局3回辞めたってこと?それってどうなの?という話ですよね。

転職するたびに毎回新しいことにチャレンジをしてきたし、レベルアップしてきたつもりではあるけれど、企業に長く勤めている人から見たら私は“ジョブホッパー(転職を繰り返す人)”だと見なされても仕方がないと思っています。

でも、自分のキャリアでは自分が常に運転席にいたつもりですし、自分のキャリアを納得できるものにしたいとずっと考えてきました。

何社かの大企業に勤めて、自分のキャリアなのに自分をその運転席に置くことが難しいという経験もしました。

私はそういう環境だと満足できないということもだんだん分かってきました。

そんな中、最後に勤めていたアメリカの企業がリーマンショックの影響で日本のオフィスを閉鎖するという話になって、この機会に独立しようと決意したんです。

どう見てもエリートのキャリアじゃあないですよね(笑)。

いろいろ失敗してきたと自覚している私だからこそ、成功体験いっぱいの誇り高いシニア層の方々に伝えられることがあるのかもしれないと期待しています。

 

小屋さんは、複数の会社を経験してきた中で、「自分のキャリアの運転席にいた」と言い切る。

どのような困難に直面しても、自分の中に堆積している確かなものを信じ続けている人のような印象を受けた。

一つの会社が続かず悩んでいる人も、また一つの会社から離れることになって不安になっている人も、小屋さんのような考え方もあることを知り、自信を持って挑み続けてほしいと感じさせるインタビューだった。

 

 

写真:田形千紘 文:安藤紀子

 

 

 

 

小屋一雄 氏 老害”とは呼ばせない!自分を見つめる勇気が「人生の上級者」としてのシニアの証しだ! 【第1回】

 

「リベラルアーツ・シニアが、“つまらない日本人” を覚醒させる!」小屋一雄 氏 インタビュー【3回】

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

小屋 一雄

日米の自動車メーカー、外資系ラグジュアリーブランドにてマーケティングマネジャー職を担当。米国系自動車メーカーではアメリカ・デトロイト本社において アジア地域の商品戦略を担当。またギャラップ㈱では1995年に日本における創業メンバーとして参画。同社が開発したポジティブ心理学に基づく各種診断 ツール(個人の「才能・強み」に着目したストレングス・ファインダー、従業員の組織へのエンゲージメント診断、更には顧客の自社ブランドに対するエンゲー ジメント診断)を活用して、グローバル企業を中心にマネージャーのリーダーシップ開発や組織開発を行うコンサルティングに従事。2009年8月に独立。こ れまでの経験を生かし、ポジティブ心理学をベースに、生き生きとした職場・人づくりのためのコンサルティングを行う。

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