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小屋一雄 氏 老害”とは呼ばせない!自分を見つめる勇気が「人生の上級者」としてのシニアの証しだ! 【第1回】

 

2017年、デビュー作で芥川賞を取った63歳の若竹千佐子さんなど、シニアの活躍が話題に上がることが多い。

その一方で、なかなか社会の中で自分を活かせずに悩む高齢者も多く、高齢者の単独世帯はここ20年で約3倍に増え、孤立化も進んでいる。

エグゼクティブコンサルタントの小屋一雄さんは企業の役員に対してコーチングを行い、組織作りに関与する中で、ある一冊の本を書き上げた。

「シニアの品格」と題されたその本の中で、大企業に勤める、怒りに満ちた59歳の主人公・東条は、88歳の奥野老人との対話を通し、世界に対する認知を変えて自分自身の役割に気付いていく。

社会の中で自分らしい居場所を持つシニアになれる方法を探る。

 

──「シニアの品格」は“シニア”と“品格”という言葉の組み合わせで、自分のシニア像をどうしようと模索している人にとってはすごくストレートに伝わるタイトルだと思いました。

この本を書こうと思われたきっかけを教えてください。

 

若輩者の私がなんで「シニアの品格」を書くんだ?と思われるかもしれませんが、実は長い間このような本を世に出したいと思ってきたのです。

そしてこのタイミングで書こうと思ったきっかけのひとつはシニアとしての「品格」を持っている人生の先輩たちに出会えたということ、そしてもうひとつは、2015年に起きた新幹線の焼身自殺事件です。(※)

事件を起こした71歳の男性は私の家から車で10分くらいの所に住んでいた人らしく、周囲の取材によると、面白い人だったそうです。飲み屋でギターを弾いたりして。

でも、年金が全然足りないということで社会に対してかなりいらだっていたようです。

その結果焼身自殺をしてしまって、それに巻き込まれて亡くなった方もいました。

本人は亡くなったけれど、加害者でもあるわけです。

その後、だんだんと報道もされなくなる中、ネットでは“老害”とか“じじいたち引っ込め”とか書かれたりしていて、とても残念だなと思っていました。

多分その人なりに一生懸命生きてきた人だと思うんですよ。

そんな人が、人を巻き込みながら亡くなって、新幹線も止めてしまって、しまいには老害と言われる。

残された家族はすごく傷ついたと思うし、きっとしばらく社会から身を隠す状況になったのではないでしょうか。

居場所のないシニアが起こした悲劇に、やるせない気持ちになりました。

これは社会システムの問題であると同時に、シニアの在りかたの問題でもあると思いました。

私は、年をとるということは、やっぱり人生の上級者(本書のあとがきに、シニアの本来の意味は「高齢者」ではなく「人生の上級者」だと書いています)になることであってほしいと思いますし、私もそんな年の取り方をしたいと思っています。

それは、どうにもならない人生の状況に対してやけになって暴力的な行動をとったりするのではなく、不愉快な思いや困難な状況を「受け入れて生きる」ということなんだと思います。

でも、実際はそれが難しい。

人生の上級者(シニア)になるために必要なのは具体的にどんなスキルなんだろう考えました。

それは頭の回転とか問題解決力とかいったビジネススキルみたいなものではないことは分かっていたんですが、なかなか答えは見つかりませんでした。

その正解なき答えをみつけるストーリーを本に書きたいと思ったんです。

 

 

 

「品格」を感じるエグゼクティブの違い

 

──事件の前から、シニアには着目されていたんですね。

 

そうですね。私が元々エグゼクティブコーチングというものをやっていて、企業の部長や本部長くらいの役職の人に対して、例えば1対1で1時間毎月会うといった形で対話をさせて頂いてたんです。

私が独立して9年目なんですけれど、ここ5~6年でコーチングのニーズが高まったのか依頼も増えた実感があります。

部長クラス以上の方々のコーチングをする中で感じたのは、50代くらいのエグゼクテイブと呼ばれている人は孤独だということ。

そして彼らには、2通りのパターンがあるなということです。

一つは、履歴書に書かれるような経歴は輝いているけれど、話をしてみるとコチコチで、本人はあまり輝いていないような人です。

仕事は出来るけれど視野が狭い。仕事のこと以外には興味を持っていない。仕事をすることだけで自尊心を満たしていて、新しい考え方を身につけることに興味のないようなタイプの人たちです。

自分の武勇伝を語るのが好きなタイプでもあります。

こういう人は、私が話をしているときに自分の意見を上からどんどんかぶせてくる。

自分の考えが正しい、他人から意見される筋合いなんかない、ということを主張するばかりで中々自分自身を振り返ろうとはしないんです。

もちろんそんな人でも傾聴を続け効果的な質問を重ねることで大切な気づきにつながることもありますが。

もう一つのタイプの人は、仕事をこなすだけじゃなくて、自分をよりよくするために常に新しいことにチャレンジしようとしている人たちです。

よく若い人に「一皮むけろ」と言う人がいますが、彼らは何歳になっても自ら「一皮も二皮もむけよう」とする人たちです。

たとえそれが小さな小さなチャレンジでもです。

彼らは、私との対話の中で自分をよりよい自分に変容するためのきっかけを探し続けていました。

ちょっとした質問でも自分自身の深い内省につなげて、自分の成長のきっかけとするんです。

そういう人たちと話をしていると、「私もこういう風にありたいな」とつくづく感じます。

彼らに「シニアの品格」を感じたわけです。

 

 

「仕事しかしていない」と気付いてから……

 ──同じ役職でも、人間性に違いがすごく出ているんですね。

 

そうですね。人間性というよりも自分を見つめる「勇気」かもしれません。

彼らは、せっかくコーチングの機会を貰えるんだったら少しでも自分を変容させたい。

自分としては認めたくない自分のダメな所を見つめることになるかもしれないけれど、それでもコーチを信頼して、果敢に自己変容に取り組もうとするのです。

そういう人は部下とも良い関係を持っているし、風通しのいい、生産的な組織風土を作っている傾向があります。

彼らを見て、いわゆる企業の“シニア社員”と言われている人の中でも、本当の人生の上級者と言える人と、そうじゃない人がいるのだなあと気づいたんです。

 

──本書で描かれていたのは、その「人生の上級者」なのですね

 

はい。コーチングを進めていく中で、本書に出てくる東条さんみたいな人、つまりコチコチの状態から真の「人生の上級者」に変容する人たちと出会ったわけです。

仕事をしていれば自分は偉いと思っていて、家庭のことなんか考えたこともないし、子どもについては自分の思い通りに育ってほしいと思うだけで本人の話は聞かない。

世の中のことも、仕事に関係のないことには興味がない、もともとはそんなコチコチの人たちなんです。

そういった人たちも、対話の中で自らを振り返り、ふと気づくことがあるんです。

「私はこれまで会社のことしかまったく考えてこなかったなあ。これじゃ、退職したらただのでくの坊ですね」と自嘲する人もいました。

「いろいろ聞いてくれたので大分整理できました。けど、ふり返ってみると私が話すことは全部業務の話だし、もう、ホントつまんない男ですね」「考えてみたら、こういう自分だから部下がついてこないんですよね」というようなことを自分で気づいて話し始めるんです。

そして「どうしたらいいんですかね」と真剣に問いかけてくれます。

これは東条さんのエピソードにも繋がってくるんですけれど、私がある人に「周りの人の話を聞いていますか?」と聞くと「聞いていません」とのこと。

一番身近な存在の奥さんの話もまったく聞いていないと言うんです。

そこで、まず奥さんの話をしっかり聞くこと(傾聴)から始めましょうと提案しました。

すると、本人がだんだん変わって、奥さんも変わり、そして会社の中での彼の影響力も高まってきて、いろいろな好循環が生まれたということがありました。

ここで大切なのは、変わろう、もっとよくなろうという勇気だったと思います。

 

──そういう人は何が違うのでしょう。

 

自分を客観的に見られること、それから自分の弱みにも真摯に目を向けられることだと思います。

最近読んで気に入った本に「おいぼれミック」というインド系イギリス人の作家による作品があるのですが、その原題が「Old Dog, New Tricks」というんです。

「You can’t teach an old dog new tricks.(おいぼれ犬は新しい芸を覚えやしない)」という英語の言い回しをもじって、立派に自分を変容させて人生の新しいトリック(技)を身につける頑固じいさんを描いた中編小説ですが、今話していることに近いことが描かれていると感じました。

 

 

──奥さんの話を「傾聴」することも、人生の上級者になるための新しい人生のトリック(技)なんですね。

 

そうだと思います。

ささいなことでも、勇気をもって行動変容を起こすことで、人は「人生の上級者」に変わっていくのだと思います。

私の知り合いで、82歳でシニアにフェイスブックの活用を広めるために起業をされた方がいますが、彼はまさに新しいトリックをシニアに配ろうとされているのですよね。素晴らしいと思います。

人によって新たに身につけるべき新しいトリック(技)は違うのでしょうが、多くのシニア層にとって必要なものが傾聴力だと思います。

本書では、それが1つのテーマとなっています。

また、部下と対話などしないで「ガタガタ言ってないでとにかく死ぬ気で金を稼いでこい」などと部下に言い放っていたような人が、自分を振り返り、人の話を傾聴できるようになって変わっていく、そんな姿を見ると私は感動せずにはいられません。

特に、大企業で役職もあるような人が、弱さをさらけ出しながら変わることを勇気を持って受け入れるというのは大変なことで、それは尊敬すべきことだと思います。

そんな、人に感動を与えるシニアに居場所がない、なんてことはあり得ないと思います。

 

──そんな思いを本にしたのですね。それも物語で。

 

はい。「人生の上級者になる7つの条件」とか「愛される上司になるための5ステップ」とか題したスキル本を書くという選択肢もありましたが、それでは伝わらないな、と思ったんです。

理屈ではないですから。物語として描きたいなと思い、小学館さんにそれを伝えました。

純粋な小説を目指すのもちょっと違うよねという話になって、じゃあ対話形式でいきましょうということで企画を通してもらいました。

こういった形で本書を世に出せてよかったと思います。

 

──本書を読んで、傾聴という新しいトリックに目覚めて、周りから愛される「人生の上級者」になった方も多いんじゃないでしょうか。

 

そうであれば、本当に嬉しいですね。

超高齢化社会の中でシニアがポジティブに変容し始めれば、間違いなく社会はよりよくなるはずですからね。

 

小屋さんが語る、社会の中で「人生の上級者」になる方法の一つ、“傾聴”。傾聴の意識が、品格を持つシニアになれるか、孤立してしまう老人になるかのポイントなのだろう。

次回は、小屋さん自身が、悩めるシニアを救う“役割”を見つけるまでの軌跡を追う!

 

※新幹線焼身自殺事件……2015年6月30日に東海道新幹線「のぞみ225号」の先頭車両で71歳の男がガソリンをかぶり、焼身自殺した事件。女性1人が死亡、28人が重軽傷を負った。

 

写真:田形千紘 文:安藤紀子

 

 

 

 

「人生のハンドルを自分で握る意識を持とう!」小屋一雄 氏 インタビュー【第2回】

 

「リベラルアーツ・シニアが、“つまらない日本人” を覚醒させる!」小屋一雄 氏 インタビュー【3回】

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

小屋 一雄

日米の自動車メーカー、外資系ラグジュアリーブランドにてマーケティングマネジャー職を担当。米国系自動車メーカーではアメリカ・デトロイト本社において アジア地域の商品戦略を担当。またギャラップ㈱では1995年に日本における創業メンバーとして参画。同社が開発したポジティブ心理学に基づく各種診断 ツール(個人の「才能・強み」に着目したストレングス・ファインダー、従業員の組織へのエンゲージメント診断、更には顧客の自社ブランドに対するエンゲー ジメント診断)を活用して、グローバル企業を中心にマネージャーのリーダーシップ開発や組織開発を行うコンサルティングに従事。2009年8月に独立。こ れまでの経験を生かし、ポジティブ心理学をベースに、生き生きとした職場・人づくりのためのコンサルティングを行う。

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