漫画界の巨人・小池一夫先生に迫るシリーズ。
第二回となる今回は、小池先生が自身の50,60代の当時を振り返って、意外な過去を告白する。
巨匠との電話で生まれた「子連れ狼」のタイトルバックの秘話も登場!
−−先生が50〜60代の頃というのは、どんな生活スタイルだったのですか?
まあ、基本的には今と変わらないですね。もっと今よりもバカやってたでしょうねえ。
でも連載の本数が16本なんて時代ですから、ほんとに寝る暇もなく書いていたと思います。
週刊現代と週刊ポストというライバル同士の雑誌それぞれに連載持つというのも自分にとっては面白い経験でしたね。
今までこの二つの雑誌に同時連載なんてやった人は一人もいないんじゃないですかね。
編集の人から「今度新雑誌を出すから書いてください」
なんて言われると、なんかこう嬉しくなっちゃうんだけど。頼まれたからって仕事を引き受けちゃってから、「あ、しまった」って。こんなに仕事を受けちゃって書けるかしらなんてね。
その頃はほかに映画のシナリオも書いていました。「子連れ狼」ね、若山富三郎さんの映画。
大変だったのは、三隅研次監督がね、「おいタイトルバックどうするよ、おい!」って電話で相談してくるわけですよ。
こっちは東京、三隅監督は京都ですよ。
電話口で考えたのが、こう。
主人公の拝一刀目がけて二人の忍者が襲ってくる。二人いるんだけどぴったり重なって走ってくるから、主人公からは一人に見える。
前の一人をやっつけても、後ろの一人残って襲ってくる。主人公が危ない!ってなった瞬間、ドキューンと大五郎の乳母車からと鉄砲玉が発射される。
面白いでしょ?
「二人の忍者をやっつけた後、“子連れ狼”ってタイトルがグーっと下から上げてくる
って言うと、三隅さんが「よしっ!」と。これで決定。ほんとバカな事やっててねえ。
夢中なんですよ、自分の作るものに。
今も話していると夢中さを感じてくれると思うけど。
なんていうのかなぁ、物を創るっていうのは、楽しいんですよ。
40代から60代の人たちが何かをものを創る方向へ行くっていうのは、いいと思うんですよ。
決して悩んだりしないで、行くのなら、行くんだ、という覚悟でね。
逃げ道にするっていうよりも、何かを書いたり創ったりっていうことはむしろ、前向きに生きていく上での力になりますよ。
――逃げ道の話が今出ましたが、会社とか日常生活だけじゃなくて、他に自分の中の世界を持っていると、すごく楽になるような気がします。
ちなみに、先生の逃げ道は何ですか?
僕の逃げ道は他人の作品を読むことですね。
−−―他人の作品ですか?
はい。ですから、まず本屋さんに行くのが非常に楽しいです。
例えば、上田秀人が出てるとか、佐伯泰英が出てるとか、自分の好きな作家っていうのは5〜6人いますから、その人たちの作品の発売日まで調べて知っているんですよ。
今度、坂岡真の「鬼役」という時代小説が出るんですよ。
鬼役っていうのがね、将軍家のお毒見役なんです。将軍が食べるご飯の前に自分が食べてみる。
鯛の中にねえ、骨がいっぱいあるでしょ?小骨一本あって将軍がちくりと痛いとでも言ったら腹切らなきゃいけない。
それくらいの世界なの。お毒見役。僕の作品にも、同じ毒見役を主人公にした「乾いて候」という小説と漫画があります。
田村正和さんが主役でテレビドラマにもなった作品です。
同じようなモチーフの作品なの。僕の作品では「毒見唇役」だったけど、この作品では「鬼役」。
うれしいなあ、早く発売になんねぇのかなぁって思いますよ。
もっと好きなのはね、アメリカのDVD。これがまた楽しみなの。
“ゲームオブスローンズ”と、“ブラックリスト”っていう有名なTV番組がアメリカでは凄い人気ですね。
で、今日TSUTAYAに寄って来たら、ブラックリストのシーズン4が出てるの。
それが僕の逃げ道です。
それから喫茶店が一軒ありましてね、とても居心地がいい。そこも僕の憩いの場所なんですね。
なんのことはない、そんな大袈裟な逃げ場所じゃないんだけど、ほっとする場所。
誰でもあると思いますよ。些細な事、小さなことでもいいけれどね。
クリエーターになるのなら、やっぱり本屋。
それからDVD、映画、アニメを自分の逃げ道にする。
ゲームにまで行けば、なおいいんじゃないですかねえ。
“艦これ”までいけば、尚いいんじゃないですかねえ、ははは。
――Twitterをしていて「楽しい!」と思う瞬間は?
僕はよくいいますけど、80年を生きた僕が言う言葉で、役に立つことがあったら、それに反応してくれたらやっぱり僕はうれしいなって気持ちはありますね。
−−小池先生のTwitterは反応率も高いですよね?
質問されたり、先生も質問に対して丁寧に答えてらっしゃる
はい、答えてますねえ。ほんとは300人くらいが、丁度いい人数なんでしょうけれども。
今は80万人いますから、もう手に余るというか なんていうか。
――アメリカの映像作品ならではの特徴はどんなものがありますか?
最近、”セカンドチャンス”というDVDをよく観ているんです。
一人の老保安官が悪い奴に殺されてしまうんです。
ところが、FBIで働く息子の前に死んだ父親が生き返って戻ってくるんです。
しかも、息子より若いイケメンになって。若返った父親は、息子に協力するようになる。
すごい身体能力を持っているわけですよ。
人間の9倍くらいの速さで走るとかね(笑)。
他にも悪魔と契約するスポーツ選手だとか、このキャラクターというのは、どんどん進化して変わってくるんですよ。
漫画の世界ではコミックコンベンションっていうのがありましてねえ、日本でも今東京でやってますけど、企業が売りたい作品の展示会みたいなものです、
本当は。読者がワーッと自ら来るような人気作品や人気のキャラクターをズラっと並べないと中々難しいですね。
サンディエゴのコンベンションなんていうのは、ピカチュウが宙を舞っていたもんですよ。
だから20万人も30万人も集まるんです。
アメリカに漫画の殿堂(アイズナー賞)があるでしょう。
日本人も多数殿堂入りしているんですけど、その中で漫画描かないやつが三人いるんだ。
誰かご存知ですか?
アメリカに「漫画の殿堂」というものがありまして、“子連れ狼”で、僕も入れていただいて、手塚さんが入って、小島剛夕さんと僕、大友克洋さん、宮崎駿さんが入っている。
映画のアカデミー賞や音楽のグラミー賞とに相当するような賞ですけど日本人って誰も知らないでしょ?
アカデミー賞とかグラミー賞は大きく報道されるけれど、ウィル・アイズナー賞、全然問題にもしない。
まだまだ漫画というものが軽く見られているんだと思いますね。
50代、60代で馬鹿をやる。だからこそ今なおその感性は衰えず、ますます磨かれていく。
世の中って、生きている限り楽しいもんだ!そんな風に思えてくるから、映像作品ってやはり奥が深い。
次回は、テーマを小説に移しながらさらに興味深いお話を伺います。
写真:田形千紘 文:安藤記子
編集・構成 MOC(モック)編集部
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