今年デビュー20周年を迎えたクレイジーケンバンドのフロントマン、横山剣さんがオススメする「大人が今聴くべき3曲」。
今回、横山さんが紹介してくれるのは、「興奮」をテーマセレクトした楽曲たち。
話題は山下達郎から永ちゃんにまで及び、横山さんの生み出す楽曲の魅力の秘密にも迫ります。
──今回、横山さんには「オススメの曲」を3つ選んでいただきました。
テーマは「興奮」にしてみました。
聴くと無条件に体が動くというか、じっとしていられなくなる曲を3曲選んでいます。
僕自身、音楽を聴いて血がたぎるような気持ちになることってそんなにないんですよ、どちらかというとMORやシティポップのような音楽を小さな音で流すことが多い。
でも、たまにはこういう曲も聴きたくなるんです。まずはフランキー・ビヴァリー&メイズの「Too Many Games」から行きましょうか。
──これはどんな曲ですか?
フランキー・ビヴァリー&メイズは僕が20代の時に、『Live in Los Angeles』というライブ盤を友人に聴かせてもらったのが最初の出会い。
「なんだこれ!」ってなりましたね、思わず服を全部抜いじゃった(笑)。
このバンドのことはそんなに詳しくないし、他の曲もこの曲ほどはピンと来ない(笑)。
あとは『Silky Soul』というアルバムのタイトル曲くらいかな。
フィラデルフィア出身で、マーヴィン・ゲイの前座を務めたりしていたバンドです。
とにかく「Too Many Games」が突出していいんですよね、しかもライブ音源が。
──このライブ音源は、今聞いても興奮しますか?
飽きたことがないですね。
車の運転中とか聴いてると……(ノリノリでハンドクラップをし始める)。
──あははは! そんな感じなんですね。
横山さんの曲作りにも影響を与えてますか?
そうですね。
録音スタジオって、最初に足を踏み入れるといつもヒンヤリしてるんですけど、そんな時はまずはこんな曲をかけて、やる気の導火線に火をつけますね。
興奮すると血の巡りが良くなって、いろんなアイデアがポップコーンみたいに弾け飛んでくる。
いわば、「気持ちのバイアグラ」ですね(笑)。
──(笑)。2番目の曲は?
山下達郎さんの「Bomber」。
とにかくベースラインが強烈です。
もちろん達郎さんのカッティング・ギターやヴォーカル、全てがギンギンで。達郎さんて、一般的なイメージは爽やかじゃないですか。
──ですよね、「夏だ!海だ!タツローだ!」というキャッチコピーもありましたし。
でもライヴ観に行くと、とんでもなく絶倫な方なんだなというのがよく分かる(笑)。
3時間とかぶっ通しでやるじゃないですか、Pファンク並みの体力というか。
──マイク通さず歌うシーンがライブでは必ずありますしね。
そうそう!
その辺のロックよりもパワフル。
ロックンロールでありながら心地よいっていう。
音楽の快感原則をすべて持っているのが達郎さんの音楽なのかなと。
──それって、CKBの音楽にも通じるところがあると思うんです。
ファンキーなリズムと、洗練されたコード進行、そして日本人の琴線に触れる切ないメロディ……全てが揃っているじゃないですか。
そう言ってもらえると嬉しいです。
達郎さんもよくフェイヴァリットに挙げてますが、その感覚ってアイズレー・ブラザーズの影響が大きいのかなって思いますね。
アイズレーに日本の情緒、「雅」のようなものをバランス良く配合しているのが達郎さんの音楽なのかなと。
そこが最高だなと思うし、僕らが目指すところでもあります。
──そもそも山下達郎さんの音楽とは、どんなふうに出会ったのですか?
17歳の時に、ディスコでシュガー・ベイブの「DOWN TOWN」がかかったんですよ。
その時に回してたDJボビーに、「この人、誰!?」って聞いて。
そしたら曲名とバンド名を書いた紙切れと、レコードからダビングしたカセットを渡してくれて。すでにシュガー・ベイブは解散していたのですが、達郎さんがソロで『CIRCUS TOWN』というアルバムを出した翌年ぐらいだったんですよね。
で、すぐにそのアルバムも買って、「Windy Lady」という曲を聴いてぶっ飛んだ(笑)。
すごく抑制されたグルーヴなのに、だからこそググッと興奮する音楽。
そういう気分にさせてくれるのって、日本人アーティストだと他には矢沢永吉さんやユーミンさんも!
──今回の選曲の候補に、矢沢さんの「燃えるサンセット」も入っていたとか。
矢沢さんも達郎さんと同じで、世間一般のイメージと少し違うんですよ。
「ロックンロールの人」と思われてるし、実際その側面が強いのだけど、めちゃソウルフルでもある。
横ノリだしサウンドの重心も低くて。
しかも歌の合間に、ジェイムス・ブラウンのようなシャウトを入れてるんです。
「ガッチュ!」とか「ウッ!」とか(笑)。
それがたまらないのだけど、ご本人は一切そういう一面について話さない。
そこがまたカッコいいなと。
──かっこいい曲にかっこいい歌詞を乗せて、カッコ良く歌っても確かに「色気」には繋がらないかもしれないですね。
そう、どこか頓珍漢なところも必要なのかも。
「間抜け美」というか(笑)。
それは、根本敬さんの「特殊漫画」からの影響であったりもします。
これ、あまり知られてないのだけど、矢沢さんのファースト・ソロ・アルバム『LOVE YOU,OK』は、ロサンゼルスのA&Mスタジオでレコーディングされているんですよね。
プロデューサーはなんと、『ゴッドファーザー』や『ゴッドファーザー PART II』のサウンドトラックを手がけたトム・マックなんです。
それもあって、当時の矢沢さんのインタビューとか読んでいたら、バート・バカラックやフランシス・レイの名前が挙がっていて。
──そうなんですか!
永ちゃんは、のちの「渋谷系」っぽい感性をお持ちだったと思うんです。
「燃えるサンセット」とかものすごく美メロで、その他にもメジャー7thやジャジーなコードを使ってる曲がいっぱいある。
しかも、それを歌い方でぶち壊すところが最高。
高級レストランでゲップするみたいな痛快感がありますよね(笑)。
ちなみにスティーリー・ダンも、サウンドがオシャレなのに歌詞がメチャクチャで好き!
──そこもCKBに通じるところがありますよね。今作でも、力士の名前を羅列したり、“やんちゃなハゲ親父”なんて言葉が入っていたり(「ZZ」)。
確かに(笑)。
そういうミスマッチ感が、色気に繋がるとも思ってるんです。
足の爪の匂いを嗅ぎたくなるような、フェティシズムをくすぐる感覚……ロックンロールも同じだと思うんですよ。
あの特徴的なエイト・ビートがロックンロールなのではなくて、普通の人が顔をしかめるような、「毒」の部分がロックンロールの真髄なのかなと。
僕がまだ17歳の頃、山崎社長(山崎眞行:「クリームソーダ」や「ピンクドラゴン」のオーナー)とお話しする機会があって、不躾にも「どうしたらもっとパッとした男になれますか?」と尋ねたら、「人の嫌がるものを作りなさい」って。
「人の嫌がるものってなんだろう……?」って考えたら、それがすなわちロックンロールなのかなって合点がいったんですよね。
人が嫌がるものや、ミスマッチ感。それこそがロックンロールであり、色気につながる魅力である。
そんな素敵な哲学を話してくれた横山さん。
次回はオススメ曲の話題から、90年代の貴重なエピソードまで披露してくださいます。
お楽しみに!
写真:杉江拓哉( TRON) 取材・文:黒田隆憲
横山剣さんオススメの曲
フランキー・ビヴァリー&メイズ:「Too Many Games」
山下達郎:Bomber
編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
大人の生き方マガジンMOC(モック)
Moment Of Choice-MOC.STYLE