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今年の夏は地表面温度も過去17年間で最高だった!~衛星リモートセンシングが捉えた7月の猛暑~

千葉大学環境リモートセンシング研究センターの村上和隆技術補佐員と市井和仁教授は、衛星リモートセンシングの手法を使い、日本の多くの地域で、20187月は過去17年間の7月の中で地表面温度が最も高かったことを検出しました。また、東アジアや世界的にみても異常高温であったことも明らかになりました。

 

 

衛星リモートセンシングによって推定された地表面温度のデータを解析した結果、日本では、2018年の7月は過去17年間の7月の中で地表面温度が最も高かったことが検出されました。また東アジアでも、韓国や北朝鮮で、日本と同様に異常高温が見られました。世界的には、東アジアに加えて、北欧を中心に様々な地域で地表面温度が例年よりも高かったことも示されました。

今年の7月の猛暑に関しては、気温に関する報告がいくつかなされていましたが、今回は初めて、衛星観測で得られる高解像度の地表面温度の解析結果から猛暑の記録が明らかになりました。

 

 

背景

近年、地球温暖化などの気候変動の問題が深刻になっています。例えば、日常においても、記録的な高温・豪雨、頻繁な台風の発生など、様々な報告がされています。2018年7月の日本では連日、猛暑との報道がされ、観測史上最高の気温を記録した地点が多く存在しました。アメダスなどの気象観測点では、日本各地の気象観測を高精度かつ継続的に記録しており、非常に有用なデータを得ることができています。その一方で、アメダスは観測点に限りがあるために、詳細な空間分布を得ることは困難です。また、国外では観測地点が少ない地域もあります。

そこで我々は、地表面の温度を空間的に推定できる衛星リモートセンシングデータに着目し、2018年7月における地表面温度の異常値を解析しました。本解析では、地球観測衛星Aquaに搭載されたMODISセンサ(※)による地表面温度プロダクトを利用しました。観測時刻は毎日おおよそ13:30、観測の空間分解能(解像度)は1kmです。

本プロダクトは2002年6月より観測データが配信され、現在も同じ衛星・センサで観測が続けられています。本解析では、2002~18年の17年間の7月のデータを用いました。

(※ Aqua衛星搭載MODISセンサ:2002年に米国によって打ち上げられた人工衛星Aquaに搭載されたMODIS (Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer)センサ。 地表面温度の観測においては、世界中を一日におよそ昼夜1回ずつ観測することができる。その他、大気、陸域、海洋など、様々な環境モニタリングに利用できる。)

 

 

 

 

結果

1. 日本を含む東アジアにおける異常高温​

東アジアにおける2018年7月の地表面温度の異常値の空間分布。基準として、2002年~2018年の7月の地表面温度の平均を利用した。黄や赤は平年よりも高温、水色や青は平年よりも低温を示す。

日本を含む東アジア地域において、過去17年間の7月の平均地表面温度(以下、平年値とする)に対して、2018年がどの程度異常だったのかを図示しました。日本では日本海側を中心に地表面温度が平年値よりも3℃以上高くなっている地域が広がっています。また、韓国や北朝鮮、中国北東部などでも、同様に平年よりも3℃以上高くなっている地域が広がっています。

 

2. 日本・韓国・北朝鮮でも過去最高温度

3カ国における7月の地表面温度の年々変動。平年値(2002-18年の7月平均)からの差として図示した。

3か国の国別に2002-18年の7月の地表面温度の変動を見たところ、3か国すべてにおいて、2018年の地表面温度が過去18年で最高だったことが明らかになりました。

 

3. 世界的には北欧を中心に高温

2018年7月の地表面温度に関する平年値からの違い。平年値として2002年~2018年の7月の地表面温度の平均と標準偏差を用いた。図では、2018年7月の地表面温度の偏差(平年値からの違い)を標準偏差で割り、偏差を標準化した「標準化変量」をして図示した。

世界に拡張して、同様の解析を行ったところ、2018年7月は、東アジア、北欧、中央アジア、北米太平洋岸域などで顕著な地表面温度の高温異常が見られました。これらの結果は気象観測点の観測結果の統計値と比較しても概ね一貫した変動を示していました。

 

 

 

 

 

今後の発展

本報告では、速報値として、衛星観測による地表面温度のモニタリングによって、2018年7月の猛暑の様子をとらえることができました。今回解析したデータは、地表面を約1kmの空間解像度でくまなく観測できるため、気象観測点の気温のデータと比較して、より細かい空間分布が把握できるという点で重要です。
2017年12月に打ち上げられたGCOM-C衛星(しきさい)では、空間分解能250mで地表面温度が観測できるため、さらに細かな地点ごとの解析が可能になります。また、地表面温度のみならず、今後は植生量や植生分布などの陸面環境が今年の異常気象にどのように反応したのかなど、衛星リモートセンシングによって様々な観測項目を統合的に確認することを予定しています。

 

補足:地表面温度
衛星観測では、地表面からの赤外線の放射をとらえることで、地表面温度の推定が可能である。今回の解析では、8日単位に推定される地表面温度データを用いた。人工衛星による観測では、雲の存在により、地表面の観測が難しくなるが、8日間の期間において、観測時に雲がない時の結果のみを平均して用いて、8日間の地表面温度の代表値とした。

 

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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