衰退が叫ばれる現代のテレビ業界。
国民からの期待と信頼が揺らいでいますが、その原因はインターネットの台頭か、テレビ業界そのものの地盤沈下か。
テレビジャーナリズムの世界を押し広げた田原総一朗 氏が思う、これからのメディア、これからの時代とは――?
センセーショナルなテレビ番組を生み出してきた田原さんですが、「テレビが面白くなくなってきた」と発言しています。
どういったところにテレビの変化を感じますか?
昔はテレビ番組へのクレームといえば、電話でした。
プロデューサーが「スミマセン、二度とこんなことしません」と電話口で謝って終わり。
ところが今はネットでクレームがくるでしょう。
するとテレビ局の管理部門やスポンサーにまでクレームが届く。
下手すると番組が潰れてしまう。
それが怖いから、製作側はクレームが来ない番組を作ろうとしている。
でもクレームが来ない番組なんて面白くない。
自分の立場を守りたいんだろうね。
僕なんか守るものが何もないけど、おかげさまでキャリアがあるから好きなようにやれるの。
テレビ局の上の人間が「田原なら、まぁいいや」と投げてくれるからね。
空気を破ったり、タブーを語ったりするなら、今やテレビよりネットの方がリアリティがあるように思います。
そんなことない。
十分、テレビでタブーを語れます。
僕はテレビでもネットでも同じ。テレビで語れないからネットで語る、なんてことは全くない。
タブーを超えないと面白くないし、それはテレビでも出来るんだ。
とするとテレビの衰退は、インターネットに負けたからというわけではなさそうですね。
「昔は面白かった」と「今はつまらない」の境界って、どうやって引かれるんでしょう。
やっぱり空気だね。
昔はラジカルなものがウケたけど、今はウケなくなった。
というのは、みんなが安定したいと思い始めたからだろうね。
戦争に負けて日本は貧乏になり、経済が無茶苦茶になった。
そういう時はみんな、経済を豊かにしてしっかりとした国にならなきゃと思っていた。
ところが2000年くらいから日本は十分に豊かな国になり、なんとなくみんなが現状を維持したいと思うようになった。
現状維持したいと思うようになってから、日本の企業が全部駄目になった。
人工知能の時代が到来したよね。
世界の最先端の企業、例えばGoogle、Apple、Microsoft、Amazonに、日本は完全に後れをとっている。
三周遅れだよ。
だって日本は挑戦しないから。
でも面白い人たちもいる。
雑誌『PRESIDENT』で月に二回、ベンチャービジネスの起業家に取材をしています。
六年間で100人以上に会ってきました。
彼らは金を儲けようとしていない。
「社会を変えたい」と思っているのが面白い!
起業して社会問題を解決へ導くソーシャルビジネスですね。
社会問題が多様であるから、その事業領域も多岐に渡る。
取材のしがいがありそうです。
僕は好奇心が強いんだね。
去年は人工知能を取り扱って、講談社から本を出す予定。
2018年はバイオを取材していこうと思っていてね。
昨日も慶應医学部の教授を取材した。iPS細胞とか面白いね。
遠くない将来、クローン人間を中国は作っちゃうね。
今でもやっている可能性はある。
中央公論(2018年6月号)に、京都大学の山中伸弥教授にインタビューした記事が載る。
iPSでいろいろな臓器が造れちゃう。
iPSのおかげでがんなどの病気が治る。
問題は、オリンピック選手を造りたいから、筋肉も造ろうとしてしまうこと。
足が速い人間。
肩が強い人間……。
臓器が造れるということは、脳も造れる、頭のいい人間が造れるということ。
日本ではそういうのはやめようとしている。
病気を治すためにiPSを活用しましょう、という倫理。
だけど中国やロシアはわからないね。
どこで倫理の線を引くか、しかし線引きをしてもやってしまう国は出てくるでしょう。
新しいタブーを生み出す予感がしますね。
最先端のテクノロジーに視線が向くのは、その先にある未来への関心からでしょうか。
はい。
人工知能でよく話題になっているのは。
早ければ2045年、遅くとも2055年には「シンギュラリティ」の時代が来るだろうということです。
コンピュータの性能が人間を超える時代だ。
人類の仕事の90%がなくなると予測されている。
そうなったらいよいよベーシックインカムが必要になるね。
ブログで「『朝生』の放送中に死にたい、大好きな仕事をその瞬間までやり続けたい」と、生涯現役への想いを綴った田原さんからすると、仕事を奪う人工知能の脅威をどう感じますか?
僕は奪われないと思う。
奪われるのはね、企業に入り仕事を与えられるという状況です。
自分で創ればいいんだよ。
仕事に限らずだけど、やりたいことをどう見つけるか。
僕が会ってきたベンチャービジネスの起業家たちは、まず大企業に入る。
そうして四、五年で辞めちゃう。
その間に彼らはやりたいことを見つけてる。
今までは、入社すれば企業の方から「こうしようああしよう」と仕事を与えてくれた。
特に男性はそうだったけど、こういう時代はもう終わりだね。
近年、兼業・副業の促進策が起こっていますし、ドラッカーが提唱したパラレルキャリアも浸透し始めていますね。
やりたいことを見つけるには、会社の中でも外でも関係ない。
旅行するのでもいい。
20年位前にシリコンバレーでGoogleを取材したら、創業者のセルゲイ・ブリンがこう話していたんだ。
「Googleの社員は、会社の仕事は80%。あとの20%は手前勝手なことをする。
その20%からGoogleのいろいろなことが生まれてくるんだ」と。
非常に面白い考えだ。
Googleが設立してまだ間もない頃ですね。
やはり様々な人にお会いしてきたようですが、中でも「この人は凄い!」と強く印象が残っているのは?
いっぱいいるよそりゃ。
松下幸之助、盛田昭夫、本田宗一郎も面白かった。
日本経済史に名を残す人物はやはり魅力がある、と。
彼らが起こした会社も、今でいうところのベンチャービジネスですよね。
そうだね。盛田昭夫はとにかく「世の中にないものを創りたい」と語っていた。
だから会社を興し、トランジスタラジオから始まって、世の中にないものを創ってきた。これが盛田昭夫であり、ソニーという会社。
時代が変わり人も変わる。
そんな中、田原さんが気になる論客は?
面白い人はたくさんいますよ。
小林よしのり、ジャーナリストの青木理、東大の法学者・井上達夫。東京工業大学の中島岳志さんとかね。
これから会ってみたい人というと?
会ってみたいと思ったらすぐ会うもん。
インタビューするなら、退位後の天皇とトランプだね。
トランプには「あなた、何をしたいんだ」と聞きたい。
僕は好奇心が強いから、次から次へとやりたいことが湧いてくる。
去年は人工知能、今年はバイオ。
今も十種類くらいの仕事を同時にやっているね。
人に会うには体も使うし、頭も使う。
それをこなしつつ新しい知識にもついていく。
2018年4月には84歳となられましたが、体力がよく続きますね。
僕はね、ちゃんと寝るようにしてる。
そして嫌なことを一切しない。
やっている仕事の90%以上は僕が企画している。
『朝生』にしても『激論』にしても、今度は何をしよう、どういう人物を出そう、出演交渉をそうやって進めよう、そういうことを僕が考えて、とても小さなことから大きなことまで自分でしてる。
……疲れませんか!?
疲れたっていいじゃない。
面白いんだから!
テレビはまだ終わっていない。
しかし変遷の時代は確実に到来している。
自ら行動し、面白がって生きる未来だ。
やりたいことが今はまだわからない人も大丈夫。
「疲れたっていい、面白いことをしようよ」田原さんのそんな声が背中を押してくれそうです。
空気を破ったら、深呼吸。
そしてまた一歩、進んでいこうではありませんか。
写真:田形千紘 文:鈴木舞
編集・構成 MOC(モック)編集部
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