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時代は変わる。「与えられる」から「見つける」へ。「守る」から「面白がる」へ。田原総一朗 氏生き方を語る【第3回】

 

衰退が叫ばれる現代のテレビ業界。

国民からの期待と信頼が揺らいでいますが、その原因はインターネットの台頭か、テレビ業界そのものの地盤沈下か。

テレビジャーナリズムの世界を押し広げた田原総一朗 氏が思う、これからのメディア、これからの時代とは――

 

センセーショナルなテレビ番組を生み出してきた田原さんですが、「テレビが面白くなくなってきた」と発言しています。

どういったところにテレビの変化を感じますか?

 

昔はテレビ番組へのクレームといえば、電話でした。

プロデューサーが「スミマセン、二度とこんなことしません」と電話口で謝って終わり。

ところが今はネットでクレームがくるでしょう。

するとテレビ局の管理部門やスポンサーにまでクレームが届く。

下手すると番組が潰れてしまう。

それが怖いから、製作側はクレームが来ない番組を作ろうとしている。

でもクレームが来ない番組なんて面白くない。

自分の立場を守りたいんだろうね。

 

僕なんか守るものが何もないけど、おかげさまでキャリアがあるから好きなようにやれるの。

テレビ局の上の人間が「田原なら、まぁいいや」と投げてくれるからね。

 

 

空気を破ったり、タブーを語ったりするなら、今やテレビよりネットの方がリアリティがあるように思います。

 

そんなことない。

十分、テレビでタブーを語れます。

僕はテレビでもネットでも同じ。テレビで語れないからネットで語る、なんてことは全くない。

タブーを超えないと面白くないし、それはテレビでも出来るんだ。

 

とするとテレビの衰退は、インターネットに負けたからというわけではなさそうですね。

「昔は面白かった」と「今はつまらない」の境界って、どうやって引かれるんでしょう。

 

やっぱり空気だね。

昔はラジカルなものがウケたけど、今はウケなくなった。

というのは、みんなが安定したいと思い始めたからだろうね。

戦争に負けて日本は貧乏になり、経済が無茶苦茶になった。

そういう時はみんな、経済を豊かにしてしっかりとした国にならなきゃと思っていた。

ところが2000年くらいから日本は十分に豊かな国になり、なんとなくみんなが現状を維持したいと思うようになった。

現状維持したいと思うようになってから、日本の企業が全部駄目になった。

人工知能の時代が到来したよね。

世界の最先端の企業、例えばGoogle、Apple、Microsoft、Amazonに、日本は完全に後れをとっている。

三周遅れだよ。

だって日本は挑戦しないから。

でも面白い人たちもいる。

雑誌『PRESIDENT』で月に二回、ベンチャービジネスの起業家に取材をしています。

六年間で100人以上に会ってきました。

彼らは金を儲けようとしていない。

「社会を変えたい」と思っているのが面白い!

 

 

起業して社会問題を解決へ導くソーシャルビジネスですね。

社会問題が多様であるから、その事業領域も多岐に渡る。

取材のしがいがありそうです。

 

僕は好奇心が強いんだね。

去年は人工知能を取り扱って、講談社から本を出す予定。

2018年はバイオを取材していこうと思っていてね。

昨日も慶應医学部の教授を取材した。iPS細胞とか面白いね。

遠くない将来、クローン人間を中国は作っちゃうね。

今でもやっている可能性はある。

中央公論(2018年6月号)に、京都大学の山中伸弥教授にインタビューした記事が載る。

iPSでいろいろな臓器が造れちゃう。

iPSのおかげでがんなどの病気が治る。

問題は、オリンピック選手を造りたいから、筋肉も造ろうとしてしまうこと。

足が速い人間。

肩が強い人間……。

臓器が造れるということは、脳も造れる、頭のいい人間が造れるということ。

日本ではそういうのはやめようとしている。

病気を治すためにiPSを活用しましょう、という倫理。

だけど中国やロシアはわからないね。

どこで倫理の線を引くか、しかし線引きをしてもやってしまう国は出てくるでしょう。

 

新しいタブーを生み出す予感がしますね。

最先端のテクノロジーに視線が向くのは、その先にある未来への関心からでしょうか。

 

はい。

人工知能でよく話題になっているのは。

早ければ2045年、遅くとも2055年には「シンギュラリティ」の時代が来るだろうということです。

コンピュータの性能が人間を超える時代だ。

人類の仕事の90%がなくなると予測されている。

そうなったらいよいよベーシックインカムが必要になるね。

 

 

ブログで「『朝生』の放送中に死にたい、大好きな仕事をその瞬間までやり続けたい」と、生涯現役への想いを綴った田原さんからすると、仕事を奪う人工知能の脅威をどう感じますか?

 

僕は奪われないと思う。

奪われるのはね、企業に入り仕事を与えられるという状況です。

自分で創ればいいんだよ。

仕事に限らずだけど、やりたいことをどう見つけるか。

僕が会ってきたベンチャービジネスの起業家たちは、まず大企業に入る。

そうして四、五年で辞めちゃう。

その間に彼らはやりたいことを見つけてる。

今までは、入社すれば企業の方から「こうしようああしよう」と仕事を与えてくれた。

特に男性はそうだったけど、こういう時代はもう終わりだね。

 

近年、兼業・副業の促進策が起こっていますし、ドラッカーが提唱したパラレルキャリアも浸透し始めていますね。

 

やりたいことを見つけるには、会社の中でも外でも関係ない。

旅行するのでもいい。

20年位前にシリコンバレーでGoogleを取材したら、創業者のセルゲイ・ブリンがこう話していたんだ。

「Googleの社員は、会社の仕事は80%。あとの20%は手前勝手なことをする。

その20%からGoogleのいろいろなことが生まれてくるんだ」と。

非常に面白い考えだ。

 

 

Googleが設立してまだ間もない頃ですね。

やはり様々な人にお会いしてきたようですが、中でも「この人は凄い!」と強く印象が残っているのは?

 

いっぱいいるよそりゃ。

松下幸之助、盛田昭夫、本田宗一郎も面白かった。

 

日本経済史に名を残す人物はやはり魅力がある、と。

彼らが起こした会社も、今でいうところのベンチャービジネスですよね。

 

そうだね。盛田昭夫はとにかく「世の中にないものを創りたい」と語っていた。

だから会社を興し、トランジスタラジオから始まって、世の中にないものを創ってきた。これが盛田昭夫であり、ソニーという会社。

 

時代が変わり人も変わる。

そんな中、田原さんが気になる論客は?

 

面白い人はたくさんいますよ。

小林よしのり、ジャーナリストの青木理、東大の法学者・井上達夫。東京工業大学の中島岳志さんとかね。

 

これから会ってみたい人というと?

 

会ってみたいと思ったらすぐ会うもん。

インタビューするなら、退位後の天皇とトランプだね。

トランプには「あなた、何をしたいんだ」と聞きたい。

僕は好奇心が強いから、次から次へとやりたいことが湧いてくる。

去年は人工知能、今年はバイオ。

今も十種類くらいの仕事を同時にやっているね。

 

 

人に会うには体も使うし、頭も使う。

それをこなしつつ新しい知識にもついていく。

2018年4月には84歳となられましたが、体力がよく続きますね。

 

僕はね、ちゃんと寝るようにしてる。

そして嫌なことを一切しない。

やっている仕事の90%以上は僕が企画している。

『朝生』にしても『激論』にしても、今度は何をしよう、どういう人物を出そう、出演交渉をそうやって進めよう、そういうことを僕が考えて、とても小さなことから大きなことまで自分でしてる。

 

……疲れませんか!?

 

疲れたっていいじゃない。

面白いんだから!

 

テレビはまだ終わっていない。

しかし変遷の時代は確実に到来している。

自ら行動し、面白がって生きる未来だ。

やりたいことが今はまだわからない人も大丈夫。

「疲れたっていい、面白いことをしようよ」田原さんのそんな声が背中を押してくれそうです。

空気を破ったら、深呼吸。

そしてまた一歩、進んでいこうではありませんか。

 

写真:田形千紘     文:鈴木舞

 

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編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を生きる、
大人のためのマガジンMOC(モック)
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PROFILE

田原 総一朗

1934年、滋賀県生まれ。
60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。
64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。
77年にフリーに。
テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』で
テレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。
98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。
現在、「大隈塾」塾頭を務める。

『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。
また、『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』講談社)、『誰もが書かなかった日本の戦争』(ポプラ社)、『田原総一朗責任 編集 竹中先生、日本経済 次はどうなりますか?』(アスコム)など、多数の著書がある。

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