人生100年時代を楽しむ、大人の生き方 Magazine

中村うさぎ氏インタビュー第2回 あなたが悩むあなたの“変”が、あなたそのもの

 

2020年の東京オリンピックを前に、世界中から来る外国人に恥ずかしくないような世界基準の街作りが東京を中心に、日本の各地で進められている。

だがそれが本来あった街の個性を無くし、画一的な価値観を押しつけるような意志も見え隠れてしているようだ。

中村さんに、多様性が失われつつある現代日本の危機や、個性の価値について話を聞いた。

 

 

規制されている、豊かさ

──中村さんの著作「エッチなお仕事なぜいけないの?」の中で、世の中見た目だけをきれいにして闇を一所に集めても、闇が大きくなるばかりで、闇の中身が見えなくなってしまうことこそ、本当は問題なのではという指摘がありました。

 

東京オリンピックの開催が決まってから、外国のお客様に対して、恥ずかしいものであるとして、オリンピックを理由に風俗やポルノが規制されていく流れがあります。

例えば欧米ではエロ本はコンビニで売っていないというような論調も強くなっているけれど、私は、日本がエロ本や風俗などが、こんなにもいろいろなバリエーションがあって、表現形態が多様であるのは、むしろ日本文化の豊かさの現れではないかと思っています。

外国人に見せても決して恥ずかしい文化ではないと思います。

日本人と同じで、外国人の中でも、眉をひそめるひともいれば、「面白い!」と受け取る人もいるでしょう。

外国人も皆が皆同じ価値観を持っているわけでもないですから、「自分の国にはないけれど、日本にはこんなものがあるんだ!」と考える人もいると思うんですよね。

ポルノや風俗を恥ずかしいと思うか、恥ずかしく思わないかというのは個々の心の問題です。

恥ずかしいと思う人が、外国には無いからという理由で「追い出してしまえ!」というのは違うでしょう。

風俗に関していえば、ある時期の歌舞伎町では、本番が禁止されているがゆえに、ものすごいバリエーションのコスプレデリヘルが登場していました。

海外では、やっぱり、売春婦は、様態のバリエーションが少なくて、露出の多い格好をして道に立っていたりとか、飾り窓にいて、選ばれたりという少ないパターンしかないんですね。

日本人みたいに、コスプレして、○○プレイとか風俗のバリエーションがないと聞いて、これは日本人の創意工夫の成果だと確信しました。

かつて浮世絵の春画が、欧米人に衝撃を与えたように、現代の日本の性文化が、世界に衝撃を与えてもいいのではと思っています。

ですが、衝撃を与えたくないという方が圧倒的に多くて、一掃してきれいにしていこうという風潮が今すごく強くなっているが、とても気になっています。

ポルノも、風俗も、私は絶対なくならないと思うので、一見無くなったように見せて、それは地下に潜るから、そうなるとどんどんいかがわしいものになっていくように思います。

かつての新宿は本当に象徴的で、3丁目の方は昼間の街で、伊勢丹の当たりにカップルとかファミリーがいっぱいいて買い物をしている。

でも靖国通り一本隔てて向こうの歌舞伎町は、昼間なんて本当に静かな街なのに、夜になって伊勢丹や店が閉まったら、ばっと明るく活気づくのです。

歌舞伎町に明かりがついて、夜の街が現れるっていうね。通り一本隔てて、全く違う文化が育まれているんですね。

さらに新宿には2丁目もあって、ゲイの街もあって、ゴールデン街というサブカル系の街があって……。

これだけいろいろな文化を、1つの街に内包している街ってすごく珍しいんですよ。

私はそんな新宿のごちゃ混ぜ感がすごく好きなんですけれど、まぁみんな同じ町並みにしましょう、みたいになってしまうと面白くないですね。

ただ一つの価値観の尺度だけで、社会を切り分けていくみたいなのは、多様性を許さなくしてしまいます。

 

 

棲み分けて、共存していく

──闇を消すことができるという人と、闇はなくならないから、闇と付き合っていくっていう考えの人とで多様性に対する考え方が違うのでしょうね

 

そうですね。例えば風俗があったら、性犯罪が減るのかとかいうデータがあれば、そのデータを根拠に論を展開することもできるのですが、データがないため、これはもう本当に水かけ論なんですよ。

例えば、コンビニにエロ本を置く、置かないというのも、それはコンビニの店主がそれぞれ決めればいいことだと私は考えています。

子どもの教育に悪いから、子どもを連れて入りにくいと言うお客さまを大事にするのか、夜にコンビニぶらっときて、エロ本買っていくお客さまを大切にするかは店主が決めればいいことで、そこに行政が介入すべきじゃないというのが私のスタンスです。

わいせつなものを許さない、子どもに見せたくないという人の気持ちも分かります。

ですがそれは例えば棲み分けをしていく問題だとも思います。

それこそ新宿の街みたいに、靖国通りの向こうは大人の街だから、未成年は入ってはいけない、というような棲み分けです。

塀があるわけではないから入ろうと思えば誰でも入れるだけれど、ここからは18禁の街だということをみながうっすら知っていて、怖かったらそこに足を踏み入れなければいいわけです。

レンタルビデオ屋も、ここから先はアダルトですよと書いてあるから、まあ興味ない人とか、子ども連れの人はそこに入らなければいいわけですし、それを買いたい人は、ちょっと人目を気にしながら、入っていくという、そういう棲み分けの問題です。

どこでその線引きをするかということを話し合ったほうがよほど建設的だと思います。

 

 

変、生きていく上で武器になる

──著作「あとは死ぬだけ」の中で、「あなたの変とはあなたの才能である、その変を何に使うかで、あなたの人生の指針は決まる」と述べておられますが、この考えに至ったのは、なぜなのでしょうか。

 

ずっと20代くらいまでの間は自分のことをごく一般的な、平均値だと思っていたのですが、買い物依存症になったときに、こんなことしている人、ほかにいないと気づいたんです。

自分自身を平均値だと思っていたけれど、こんな変なところが私の中にあったとは、とびっくりしました。

しかも人に誇れるような“変”でもなく、買い物が止まらない、というむしろおぞましい変でした。

でもその自分の一番変な部分を発見したときに、おののいた一方で、自分で面白がってネタにして、エッセーに書いてみました。それにより、ある程度の認知度を得たというきっかけがあるので、変は武器になるなと思いました。

今日も自分が変な買い物をしてしまったというだけで、みんなは「またか!」という感じで、楽しんでくれたわけですよね。

他人を見ていても、普通だったらしない言動をする人の方が意外性あって面白く、魅力を感じます。

自分の変とうまく付き合うには、変の種類にもよりますが、それも自分の一部として受け入れることだと思います。

私も当時は買い物依存症を一生懸命治そうと努力しました。

クレジットカードを人に預けて、使えないようにするなどしていろいろ工夫はしたんですけれど、結局挫折してしまいました。

もう治る気がしなかったから、一生死ぬまで私は買い物をし続けるんだろうと思って。

それならもう死ぬまで買い物をする人間として生きようと諦めたというか、開き直りました。

そうしたときに、少し精神的に楽になったので、その変なところを直そうとしないほうが、人生は楽だなと思いました。

LGBTも今は認知が広がって、ゲイの人も自認しやすくなっていると思います。でも一昔前くらいのゲイは、本当に葛藤したと思います。

それを受け入れていく過程のようなものが、彼らの人生哲学なり、人生の視点なり、人生の知恵とか、処世術みたいなものを生み出してきたわけでもあり、オリジナリティーが生まれたんだと思います。

だからそうやって、自分の変なところを直すのではなく、自分の一部としてまず受け入れるところから始めないと、この“変”をいかすことはできないだろうなと思います。

ロリコンみたいな性癖な人だと、その変な性癖が性犯罪に繋がっちゃうから、発揮できないわけですね。

発揮できない欲望を、どのように解消するかっていうのも彼らの生き方の一つのテーマになると思うので、やはり人生のテーマをもつことは大事だと思います。

人生のテーマが発見できるのは、大抵自分の変なところからだから、変をどうやって手なずけていけばいいいのか、受け入れていけばいいのかと考えて共存することが重要だと思います。

手なずける方法は自分で見いだしていく。

マニュアルはなくて、買い物依存症の人、ゲイの人、ロリコンの人では、またそれぞれ違う方法になると思います。

同じ買い物依存症の人でも違う方法で、それぞれ手なずけていくでしょう。

私は幸運にも、物を書く仕事だったから、ネタにしやすかったというのはあるけれど、普通の家庭の主婦だったりOLだったりするとネタにしにくいけど、でもそれは周囲の人の中でエンターテインメントにしてしまった方がいいと思います。

面白いって思われた方が勝ちだから。そういうふうに視点を変えて受け入れていければいいなと思います。

 

 

──この本の中にも、多様性のある社会、ゲイの人だったり、風俗であったりする人たち、そういう多様性みたいなものもだんだんと危うくなっているみたいなことも、中村うさぎさんは感じられました。

自分の中にある人とは違う変さを認めることが、多様性の1歩みたいなものだったりするのでしょうか。

 

そうですね。

変は個性なので、多様性に繋がりますからねでもみんなが、通り一遍のマニュアル通りの優等生になった社会っていうのは、ものすごく怖いことだと思うんです。

一元的、二元的な考え方というのが、私は豊かではないなと思うので、自分の変も許して、他人の変も許すことが重要になっていくと思います。

不倫の問題にしても、不倫はいけないことじゃないかと言われたら、いいことだとは誰も言えないですけれど、人間だから、結婚していても他の人を好きになったりだとか、ついつい好きな人とやっちゃったりとか、みんなないのか、そんなに清潔な人生を生きているのかということを思うんですよ。

特に鬼の首を取ったみたいに芸能人や著名人の不倫をバッシングする週刊誌を見ていると「みんな、そんなに清潔な人生生きてるの?」みたいなことを思うのですよ。

まぁ記者が不倫していることを知っているから「自分が不倫していて、よくそういう記事書けるな」って思うわけ。

彼らも人間ですから。そういうのを見ていても、特に私は非難したこともないし、ああそうなんだ、人間だからね、やっちゃうよね、みたいに思っていたけれど、「自分のこと棚にあげすぎだろ!」と。

ちょっと棚卸ししてほしいなとは思うんですよね。

正義や、善悪のような尺度だけで、社会を切り分けていくみたいになると、やっぱり多様性っていうのは許されなくなっていくわけですよね。

その変なものが駆逐されるみたいなものは、気持ち悪いです。

 

個性を認め、棲み分けをする。そこに息づく多様性が世の中を面白くするのかもしれない。

「生」と「性」、死ぬまで一生、人を悩ませるこのテーマを中村さんはどう考えているのでしょう。

写真:花盛友里  文:安藤記子

 

 

 

 

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中村うさぎ氏インタビュー第3回 性的価値に捕らわれないという生存戦略 

 

撮影場所:キリストンカフェ東京

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
大人の生き方マガジンMOC(モック)
Moment Of Choice-MOC.STYLE

 

PROFILE

中村 うさぎ

1958年生まれ。エッセイスト。福岡県出身。
同志社大学文学部英文学科卒業。
1991年ライトノベルでデビュー。
以降エッセイストとして、買い物依存症やホストクラブ通い、整形美容、デリヘル勤務などの体験を書く。

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