Vシネの帝王・竹内力氏は今も現役で俳優として活躍されながら、プロデューサー、経営者としての顔も持ち合わせています。
九州に生まれ育った力さんが、単車で乗り込んだという東京でいかにしてビジネスチャンスを勝ち取ったのか。
成功に挑んだ一人の男の人生の軌跡を辿ります。
──2017年は、竹内力さんが原案・製作総指揮・主演のドラマ2作品『闇の法執行人』『大馬鹿代』(いずれもJ:COMで配信)を手掛けるなど、役者のみならずプロデューサーとしてもアグレッシブに活動されていらっしゃいますね。
そうだね。元々、役者が好きで芸能の道に入ったわけじゃなかったからね。
役者始めて若い頃売れたとしても先々の保証はないんだよね、俺らの商売って。
だからそんな考えで、「仕事がないなら俺が自分で仕事を生みゃあいいじゃん」って思った訳。
で、製作会社を立ち上げた。もう20年くらい前のことだね。
当時は結構周りから反対されたね~!
俺はVシネを足掛かりに、将来は単館映画を作れるくらいになれればいいなと思ってた。
そしたら、いつの間にか単館映画を作り、全国映画も作り、海外と合作映画もできたんだよ。
今もたくさんの企画が動いてる。
プロデューサーとしての竹内力? 俺は“現場”と“お客さん”を大事にする。
とにかく一番強い立場はスポンサー。そりゃそうだよ。
監督だってプロデューサーだって俳優だって何だって、お金もらってないと仕事できないじゃん。
誰でもそうでしょ? お金があっての作品作り。だから俺は、意見を言うために自分も出資する。
「セイサク」には2種類あってさ。
いわゆる現場的な「制」作会社と、オーナーとしての「製」作だね。
俺はその両方をやってる。そうでないと権利を持てない。
製作は、作品が当たっても外れても全てを請け負う。
制作は作品が売れなくてもマイナスにはならないよね。
だから製作は博打だよ。
んで、俺は小さい博打は一切やらない。製作会社で大きな博打をしてるのよ。
──生み出す役柄は、シリアスな強面から『大馬鹿代』のような名(珍?)ヒロインまで実に多彩ですね。
観る側からすると、力さんに飽きることがない(笑)。
俺、お客さん目線でしか考えてない。
うちの社員をみんなプロデューサーに育ててるんだけど、「常に客観的に物事を見ろ。
プロデューサーってのは、お客さん目線になんなきゃダメなんだよ」って教えてる。
観てくれるお客さんは、映画に時間を費やしてくれてるんだ。上映時間って短くはないし。
俺たちは貴重な時間とお金を払ってもらってるんだ。
どんなお客さんからでも「いい映画でしたね」って言ってもらえてこそなんだよ。
「あ~。つまんなかった」と思われたら俺のプライドは崩れる。そこが俺の闘い。
みんなから最低でも70点もらえるような作品を作らないと、製作者としては“負け”だなと思ってる。
作品がアクションものだろうが恋愛ものだろうが、コメディもの、最後に感動してもらえれば勝ちなんだよ。
素材がなんであろうとね。
スポーツでも家族でもアニメでも。だから脚本作りが大事。
脚本には時間をかけなきゃいけないと俺は考えてるよ。
──RIKIプロジェクト(竹内力さんが1997年に立ち上げた芸能事務所兼製作会社)では観客目線のプロデューサーを育てている、と。
映画『聖の青春』(森義隆監督、2016年公開)など話題作を世に送り出していますね。
依頼が増えちゃって断ってるくらい。それも大きい映画。
この間もあったんだよなぁ~(悔しそうに眉間に皺を寄せる力さん)。
うちの規模的に、まだプロデューサーの人数が足りなくてね。
──手掛けている作品には、演技経験の少ない若手俳優を抜擢することもありますよね。
相手のどんなところを見ていますか?
その役をやりたい人は腐るほどいる訳じゃん。
まずはオーディションでお芝居を観させてもらったり、資料を確認させてもらったりする。
キャスティングは俺の意見だけでは決まらないけどね。
その子があまりにも現場についてこれないような演技力だったら、意見は言う。
でも、よっぽどひどくなければ現場で教えることもできるよね。
若い子は基本的に出演作品の本数が少ないし、経験もないよね。
そういう子は現場で伸びていかないと。
チャンスは誰にでもあるべきだし、邪魔されるべきじゃないよ。
けどまぁ、わがままなやつとか空気を乱す奴は嫌だね!
俺には、ハッキリ言って芝居の良し悪しはわかんねーな。
芝居って、上手い人が下手になることはほぼないよ。
人気がなくなるっていうのは、ただ単に時代に合わなくなった、飽きられたってだけだと思うね。
芝居というよりキャラクターだよ、個性ってやっぱり強いんだよ。
あとは年齢だね。どんなに芝居が上手い役者さんでも、年齢的に淘汰されることはある。
娯楽作品は若い人が主役のものが多いだろ? 役者は段々ふるいにかけられるんだ。
だからビートたけしさん、鶴瓶さん、タモリさんとかお笑い界のビッグな人間たちはホント凄い。
ずーっと第一線だからね。
──力さんも役者、プロデューサーとして活躍し続けているじゃないですか。
俺なんか大したことないよ。たまたま運がよかっただけ。
俺はもともと長屋育ちの貧乏人。そんな俺も今じゃ会社経営をしてる。
そのためにも普段から違う業種の社長たちと付き合いをしていて、そういう人たちと一緒に飲んでると、社会の動きが見えて勉強になるし、会社を経営していく上で俺にとってプラスになるんだよね。
──力さんも役者、プロデューサーとして活躍し続けているじゃないですか。
たまたま流れがよかっただけだよ。俺はもともと長屋育ちの貧乏人。
似たような奴らが多いんですよ、俺の周りに。
どんな奴らかっていうと、三代目四代目の社長仲間が多いね。
中卒だったりスゲー貧乏だったり、親一人子一人で苦労してきた社長とか会長とか。
そういう人たちと一緒に飲んでると、俺にとってプラスになるね。
──お話しを聞いていると、製作側の人間として金銭感覚がシビアですね。
いや、俺が言いたいのはね、ただ製作会社は作品を作るだけじゃなくて、事業を成功させなければならない。
だから、お客さんにお金を払ってもらっている、払わせているってことはよく考える。
映画館に行って映画を観ると、大人1枚で1800円のチケット代がかかる訳だから。
ハリウッド映画だろうと邦画だろうと同じ値段(笑)。
ハリウッド映画と邦画では製作費が莫大に違いすぎて、もう愕然とするくらい…。
海外の有名な俳優主演のウン百億、ウン千億単位の製作費で作ってる映画とさ、日本の映画では全然違う。
俳優のギャラだってそうだし、組合からエージェントから何から何まで違う。
それなのに同じ値段で見に来いっていうのは無理があるよね、ハッキリ言って。
日本でどんだけ頑張ってもここにはアメリカン・ドリームはないよって。
だからアメリカに行って頑張る俳優さんもいる。
野球で言うメジャーリーグを目指すのと一緒だよ。
──映画でヒットを飛ばすのが難しい今の時代に、RIKIプロジェクトには断るくらい仕事が来ている。
信頼が集まっているということですね。
だからって俺は何にもできないよ。社員たちが頑張ってくれているだけ。
有難いもんだよ(笑)。俺は感覚だけ。自分の感覚を信じて突っ走る。
失敗したら失敗したで納得づく。
だって、元が40万円だからさ。若い頃、九州の田舎から単車で40万円を握りしめて東京へ出てきた。
だから最後に40万円が残ってればトントン。人生ぶっ通しで見れば赤字ではない。
──失敗を恐れないのですね。
壁にぶち当たって倒されても突き進む。
俺にはもともと力がないからさ、人生勉強というか、常に前向きに考えるように意識してる。
時代や社会ってこれから変わっていくじゃん。大昔、お金は貝殻だったけど、硬貨になってお札になって、今なんて仮想通貨。
いろんなものが淘汰されていった先に変化がある、いま頑張ってるやつらが上に行くことだってあるんだよ。
時代によって、昔の戦国時代みたいに変わる。歳とともにみんな死んでいく。
人ってずーっと生きれる訳じゃないから。常に新たな生命が生まれている。
ケータイだって俺らがガキの頃はなかったよ、黒電話だったよね。
そうして公衆電話が出来て、スゲーなって思ってた。
そこで終わりじゃなくて「ショルダーの電話ができるらしいぜ」ってなって、「クルマに電話がつくらしいぜ」「クルマに電話――!? スッゲーや!!」ってさ。
いつの間にかカメラやビデオカメラまでついてる携帯が出て、あっという間にスマホだぜ。小さいパソコンと同じだよ。
こんな時代になったからさ、何がどうなるかわかんねーよ。
テレビだってそう。昔はテレビドラマの時代劇なんて週に6本くらいは放送されてた。
『大岡越前』、『子連れ狼』だなんだいろんな作品があったのに。今、時代劇は大河ドラマくらいしかないんじゃないか?
変わってきたもんだよね。
時代は一瞬たりとも止まっていないから、“先を読む”ってのは大事。結局は情報だと思う。
俺は起業人とメシ食ったり呑みに行ったりしてる。業種の違う連中を集めて「これから世の中はあーなる、こーなる」っていうのを話してると、「へぇ~」って勉強になる。
バカ話してても情報は入ってくるね。
そこでまたビジネスが始まることがある。面白いんだよ。
──LINEスタンプは力さんのアイデアですか?
若い女性に大人気だったようですね。
(人気を博した竹内力さんのLINEスタンプ。シリーズは第9弾まで発売された。RIKI PROJECT)
あれは俺だね。
キッチンでメシ食いながら夕方の情報番組を見てたらさ、どっかの主が副業でしてるLINEスタンプのことを喋ってた。
それを見てたら「俺、イケんじゃねーか?」って思ってすぐに行動したよ。
俺、着信ボイスの男部門ランキングでずっと1位だったんだよ。
だからキャラクター関係は自信があった。
うちの社員にすぐ電話したよ、「LINEスタンプってやつがあるらしいから、俺の作ろうぜ!」って。
でも俺ね、パソコンとか苦手なんだよ。
メールを覚えるのも遅かったし、ガラケーからスマホに変えるのも遅かった。
アタマ悪いから、そういうの面倒くさいんだよ。
──次々にビジネスチャンスを掴んでいる力さんに、アタマ悪いと言われても(笑)。
俺の場合、全部勘!野獣の勘!パソコンもできねー、麻雀もトランプもできねー。
──ええー!!麻雀、似合うのに……!
ちゃんとしたいわゆるアタマのいい奴らとはやり方がやっぱり違うよね。
俺の親父が大工だったから、俺も大工やるのかなと思ってたぐらい。
でも、親父の姿を見てたからモノを作るのは好きだね。
中学ン時、技術家庭の授業で木製のゴミ箱を創作したんだよ。
納得いく出来になるまでスゲー考えて工夫してさ、アイデア出して必要ないのに鍵まで付けて、何回も作り直したんだよ。
──凝り性ですね~!
そう、凝り性なんだよ。でも無駄な時間は嫌いだね。
ぼ~っとしてることも多いけど、頭の中は動いてるね。なんか面白いことできないかなって考えてる。
俺がこういう風に動いたら、(状況は)どうなるかなって。
だから何かに取り掛かるときは、直線に進むんじゃなくて、大回りしてみる。
それで最終的に上に行ければいいかな。
近道はしないのかって? 近道なんてできないから!
俺は金持ちの家に生まれた訳じゃないし、親がエライ奴でもない。
そういうブレーンみたいなのが全くないんで、生まれながらのチャンスだとか恵まれた感じだとか、そういう近道は俺にはない。
そういうのは自覚してる。
俺は勉強嫌いだし、読書感想文なんて兄貴に書かせてたなぁ。
教師にも怒られたりね。かといって、俺は暴走族には入ってなかった。
そういう興味が全くなかったね。
人に迷惑をかけるのが嫌いなんだよ! 弱い者いじめも嫌いだし。
単車には乗ってたけど、そこまで改造しなかったし。
カスタムはしてたけど、別に暴走したいわけじゃねーから。
やたら悪ぶってるのは「なんかダセーな」ってさ。
だから俺は車道まで単車を押して、ご近所に迷惑かけないよーにしてからエンジンかけて(笑)。
だって家の目の前でエンジンかけたらウルサくてしょーがねーだろ?
──既製品では満足せずに、工夫するのが好きなんですね。
ご自身で、人生もカスタムしてきた?
行き当たりばったりだよ。
俺はあえてキワを行く、落ちるかもどうなるかもわからないところをね。
真ん中を進むのは嫌なんだよ。ツマンないし、刺激がなくて。
刺激ってさ、人によって違うけどさ。インベーダーゲームが流行したときにこう思ってたね。
それにハマっている人はインベーダーゲームが刺激的で楽しいのかもしれないけど、俺は一切興味がなかった。
そういうのにコインを入れてお金使うのがもったいなくてさ。小遣いは自分で稼がなきゃいけなかったから。
そういうのにお金使える奴らのことがちょっとだけウラヤマしー反面、羨ましがるのは俺の親父を馬鹿にしているような気がしてた。
親父は汗垂らしながら炎天下の下、ノコギリで指を落としそうになりながら大工仕事してんだから。
──自分の力で成り上がりたいという気持ちが強かった?
貧富の差と言うか、なんだろうね。なにか“差”があるじゃない、世の中に。
それが悔しかったね。もっと両親にいい思いさせてやりたいって思ってた。
何にしろ、上を目指して行ける所まで行く。そういう気持ちが強かった。
勉強は苦手だけど、体育はずっと得意だったね。運動会はもちろんリレーの選手でスターだった。
リレーの最終走者で俺がバトンをもらったとき、その時点では8人中6とか7番目だったとする。
走り終えたときに1位になっているのはこの俺だ、でもまだまだエンジン全開にしない。
視界の前には他ほかの奴が走っている。最終コーナーに差し掛かって、みんなが「もうダメかな」って思い始めた頃ころに、ぐぐっと俺がゴボウ抜き。
そうするとさ、ぐぅわ~っ!!てみんなが盛り上がるんだよ。そういう演出をするのは好きだったね。
こけたり足がもつれたり、肩がぶつかったり、そういう可能性もあるよね。
ギリギリを狙ってるわけだから。
だけど、そこの賭けはしたいんだよ。安全パイは狙わない。自分の力量を考えつつ計算しつつ、客観的に自分を見るんだよ。
俯瞰から周りのことも含めて見る。
そして最高の演出をして。みんなを楽しませたい。
自分には何もない」自らをそう分析しているからだろうか。
竹内力さんは仲間を信頼し、お客さん目線に立ち、人生100年時代の変化を読み取っていく。
そうすることで、着実に経験を積み重ねながらも柔軟に新しいことを吸収する感覚で、ビジネスチャンスを掴んでいるようです。
次回インタビューでは、起業家・竹内力氏が重んじる人としての肝についてお話を伺います。
写真:田形千紘 文:鈴木舞
衣装協力
編集・構成 MOC(モック)編集部
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