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リアルな不倫体験記 恋のあとさき ~実話編【1】〜 初恋の男が義兄・・・

 

事実は小説よりも奇なりという。不倫の取材をしていると、本当にそうだと実感する。

意外な相手と意外な出会いや再会をして、不倫に陥っていく女性たちに計算や打算はない。

「本当の愛」を求めて、愛に身を焦がす自分を求めて危険だと承知の上で関係を続けているのだ。この話は実話である。

 

初恋の人が義兄……

「どこで誰にばったり会うか、世の中わからないものですね」

しみじみとした口調でそう言うのは、ユミさん(49歳)だ。結婚して24年、長男は独立して家を出、大学生の長女と夫の3人暮らしである。

ごく普通の家庭生活を営んできたユミさんが恋に落ちたのは2年前。

そこから「今までに感じたことのない、ありとあらゆる感情をこの2年で知った気がする」そうだ。

この上ない喜びも、自分の中に渦を巻くどす黒い嫉妬も、そしてとんでもない後ろめたさも。

ユミさんは三姉妹の末っ子として都内で生まれた。

「私が高校3年生のとき、いちばん上の姉が婚約者として連れてきた男性に一目惚れしてしまったんです」

当時、長姉は25歳。婚約者のヨウスケさんは28歳だった。

男きょうだいのいない彼女には10歳年上の男性はオトナの男に見えただろう。

もちろん、ユミさんはそんなことをおくびにも出さず、姉は結婚していった。

「ところが3年とたたずに姉は離婚すると言い出して。

何が原因かよくわかりません。私にはいい義兄さんだった。

だから離婚するかもと聞いたとき、義兄さんが心配になって、思わず彼の会社を訪ねてしまいました」

大学生になっていたユミさんは、それまでも近くを通りかかると連絡してみることはあった。義兄は時間があれば会社を抜け出して、ケーキとお茶くらいごちそうしてくれた。

「そのときは義兄さんを訪ねると、『今、時間がないんだけど、ユミちゃん、よかったら仕事が終わるまで待っててくれない? 夕飯くらいごちそうするよ』と言ってくれて。ちょうど夕方だったから、1時間ほど時間をつぶして待っていました」

義兄は自分がときどき行くらしい居酒屋につれて行ってくれた。

学生街の居酒屋と違い、サラリーマンばかりが集まる店の雰囲気に、ユミさんは好奇心が募ったという。

義兄は実家に来てお酒を飲んでもほとんど酔わない。

ところがその日は違った。

「かなりハイペースで飲んで、『ユミちゃんに言う話じゃないけど』と姉さんのことも少し愚痴っていましたね。どうやら早く子どもがほしい義兄さんと、仕事が楽しくなった姉さんとの間で諍いが絶えなかったみたい」

店を出ると、義兄の足元がふらついた。

支えたユミさんの顔を酔った目でじっと見つめた義兄は、ぎゅうっと彼女を抱きしめ、両手でそっと顔をはさんで唇にキスをした。

ユミさんが驚いていると、義兄が顔を離して「ごめん」と言った。

ユミさんはあわてて今度は自分からキスをする。舌が絡み合った。ユミさんの体が熱くなっていく。

「義兄さん、どこかに連れていって。私はそう言いました。当時、私は大学で初めての恋人ができたばかりだったけど、義兄さんと結ばれたい。真剣にそう思ったんです。義兄さんは黙ってタクシーを止めました」

ユミさんの胸が高鳴った。だが結局、義兄は彼女を自宅に送り届けると、そのままタクシーで走り去った。

「その日、実家には長姉が来ていて、親に『やっぱり離婚したい』という話をしていたようです。姉さんがいらないなら、義兄さんを私にちょうだい、と喉まで言葉が出かかりました」

その後、長姉夫婦はやはり離婚した。義兄とはそれきりだった。

 

再会

それから長い長い年月が流れた。長姉はいまだに独身でバリバリ仕事をしている。

もともと仕事が性に合っていたのだろう。次姉は30歳で結婚して仕事をしながら家庭を築いている。

父は亡くなり、母は次姉一家と一緒に住んでいる。

義兄は長姉と離婚したあと、会社に転勤願いを出してアメリカに渡ったと聞いたことがあるが、それ以降どうしているかユミさんはまったく知らなかった。若いころの淡い恋心を忘れ去ってもいた。

そして2年前、娘が短期留学でアメリカに渡り、帰国を迎えに成田空港に行ったとき、「ユミちゃん」と呼ばれて振り向いたら、義兄が立っていた。

「ドキッとしました。名前を呼ばれ、その声が甘く体に忍び込んできた感じ。若かったあのときの私を思い出しました。義兄への思いも」

思わず駆け寄って、お互いに早口で近況を報告しあい、連絡先を交換してその日は別れた。

義兄は当分、日本にいると言っていた。ユミさんの心が弾んだ。

「それから数日後には連絡をとって会いました。それまで義兄はアメリカと日本を行ったり来たりの生活をしていたようです。再婚してふたりの子にも恵まれたと笑っていました。25年ぶりくらいに義兄と食事をしながら、この人はやはりステキだわと思っていた。人の好みって、年とっても変わらないんでしょうか(笑)」

ゆっくり食事をして店を出たが、なんとも別れがたい。

もう少しだけとバーに入った。年齢差も元義理の兄妹という関係も、もはや気にならなかった。

ユミさんは義兄と最後に会った晩のことを話した。あの晩、義兄とふたりきりになりたかったのに、と。義兄は笑っただけだった。

「今さら、ですよね。すべてが今さら、なんだ……。そう思ったらなんだか悲しくなってしまって。店を出ると、義兄がふっと『うち、都内じゃないから今日はホテルに泊まるんだけど、ユミちゃん、もう少し飲む?』と。そのまま黙って頷き、彼のホテルの部屋へ一緒に行きました。私は21歳の“ユミちゃん”に戻っていたんだと思います」

部屋に入って冷蔵庫から缶ビールを取りだしたが、ふたりとも缶を開けるより先に抱きしめ合った。

「あのときは若かったのに……」

ユミさんがつぶやくと義兄は「ユミちゃんは今もステキだよ。今のほうがステキかもしれない」と言った。唇が合わさり、舌を絡めた。

「そこからは我を忘れるような時間が流れました。義兄は体を鍛えていて脂肪もついていない。50代後半とは思えなかった。私を抱き上げてベッドに連れていってくれて、器用に服を脱がせると全身を丁寧に愛撫して……。私、まだこんなに感じるんだというのがうれしくてたまらなかった。私が好きだったのはやはりこの人なんだと思いました」

更年期にさしかかって体調が悪かったユミさんは、夫からの誘いにめったに応じなかったが、そのときは「この人がほしい」と思った。「早く、早くほしい」と叫んでいたと後から彼に聞いた。

「気持ちがいいというより、気持ちがよすぎて怖かった。息ができない、体が自分のものではない、ああ、死んじゃうって思っていました。彼と結婚した2度目の奥さんを心から羨ましいとも思った」

狂乱の時間が過ぎ、彼は「すごくよかったよ。ユミちゃんはいいオンナだ」とつぶやいた。そのとき、ユミさんは「彼に再会するために私は生きてきたんだ」と実感したという。それ以来、ふたりで親密な時間をときどき共有している。

「彼が仕事で忙しいこともあって、月に3回くらいしか会えないんですが、彼に再会して人生観が変わりました。

彼は仕事の合間を縫ってボランティアなどもしているので、私も一緒にやるようになったし、近くのファミレスで働き始めたんですよ。

『今さら働かなくても』と夫や娘には言われたけど、やはり自分のお小遣いくらい自分で稼ぎたい。

夫からは『最近、生き生きしてるなあ』と言われました。オンナとしてもう一度目覚めた感じ。更年期なんてぶっ飛んじゃいました」

明るい表情でユミさんはそう話す。ときに彼の妻に嫉妬することもあるが、「いつか一緒に旅行でもしよう」と彼になだめられ、嫉妬するのも筋違いだしと理性を取り戻すことができた。

「家庭を大事にしてきて子どもたちを育て上げたことはまったく後悔していません。いい人生だったと思ってる。でもここからは私個人の自由も少しはあってもいいんじゃないか。今はそんなふうに思っています」

パステルカラーのワンピースの裾を少しなびかせながら、ユミさんはにこやかに去って行った。

(了)

 

イラスト:アイバカヨ

 

 

 

 

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編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

亀山 早苗

1960年東京生まれ。明治大学文学部卒業。フリーライターとして、女性の生き方を中心に恋愛、結婚、性の問題に取り組む。『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『不倫の恋の決断』『妻と恋人』『渇望』『オンナを降りない女たち、オトコを降りるオトコたち』など、不倫や婚外恋愛に関する著書多数。『渇いた夜』、『愛より甘く、せつなく』などの小説作品やノンフィクション作品も手がける。

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