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実話ベースの不倫小説 恋のあとさき 11 ~隆史の場合【2】〜

 

~隆史の場合【2】〜

人はどうして不倫という名の恋に落ちるのか、そしてその恋はどういう展開をたどるのか。

女性たちの気持ちは、そして男性たちの心は……。

実話をベースにした不倫小説をお送りします。

 

自ら指定した小料理屋で、隆史は軽くビールを飲みつつ亜希子を待っていた。

ここはひとりでときどき来る店だ。

仕事仲間とは決して足を運ばない。

ひとりでほっとしたいとき、そのまま家に帰りたくないとき、ひっそりとカウンターの片隅で飲み、大将とぽつりぽつりとしゃべるために来る。

今日はカウンターではなく、小上がりの部屋だ。

がらりと戸が開く音がし、「こんばんは」という亜希子の声が聞こえた。

すぐに亜希子の姿が現れる。

「遅くなってごめんなさい」

小声で言って、隆史の目を見てニコリと笑う。

落ち着いた小料理屋などでは決して大きな声を出さないし、立ち居振る舞いもきちんとしている。

場所と状況に応じて的確な言動をとるのが彼女のすごいところだと隆史は日頃から感じていた。

だから、こうした小料理屋に連れてくる気になったのだ。

「すごくいい雰囲気ね、ここ」

「なんでも好きなものを頼んで」

亜希子のコップにビールを注ぐ。

亜希子は焼きタケノコやアスパラなど季節が感じられるものをすぐに数品頼んだ。

「ここはあなたの隠れ家ね。

私なんか連れてきちゃっていいの?」

場所のせいか彼女の口調のせいか、亜希子がいつもよりぐっと大人びて見えた。

「それだけきみを信頼しているということだよ」

うふふと亜希子が含み笑いをする。

隆史には、半年の間、密接に体を絡めてきた亜希子の心の奥がわからない。

いや、もしかしたら、体にもまだまだ隆史の知らない秘密が隠されているのかもしれないが、少なくとも今のところ、体はより密接にメッセージのやりとりをしているような気がする。

「体より心のほうがわかりづらいな」

隆史がぽつりと言うと、亜希子は軽く彼を睨む。

その目が濡れたように見えて、隆史はドキッとする。

50歳を越えて、これほど女性に体が反応するとは思っていなかった。

 

亜希子は少しの酒で酔う。

頬を染めて、少しだけ物わかりが悪くなる。

「ねえ、箱根でも伊豆でもいいの。

1泊しよ」

声は小さいままだ。

「1泊してどうするの?」

「お風呂入って一緒に寝て、お風呂入って一緒に寝るの」

亜希子の言葉に隆史の下半身が熱くなっていく。

そんなことができたら天国だな。心の中で思う。

だがそれが会社や家庭にバレたら、どえらいことになる。

いや、休暇を使って行けばわからないだろう。

そう簡単に誰かに見つかるわけではあるまい。

しかし、悪事千里を走るというしな……。

一瞬の間に、隆史の心が千々に乱れる。

「不倫だもんね、私たち。いいわ、私はずっと影の女で」

悲しそうな亜希子の表情に、隆史は慌てる。

「待てよ、そんな言い方するなって。

一緒に行けるように考えてみるよ。

車で行こう」

「ほんと?」

亜希子の顔がパッと晴れる。

この笑顔を見たいがために、隆史はつい無理を重ねてしまうのだ。

この半年で、どのくらい朝帰りをしたことか。

もともと多忙ではあるが、これまで朝帰りはそう多くはなかった。

妻には「大きなプロジェクトを抱えていて、今までにないくらい多忙だ」とは伝えてある。

由美子はきっと信じているはずだ。

 

女の体が変わるとき

いつものように食事のあとはタクシーで亜希子の部屋に一緒に行く。

亜希子が熱くて渋い日本茶を入れてくれる。

ソファでお茶をすすりながら、亜希子が最近観た映画の話に耳を傾ける。

彼女はストーリーと自分の感想をきちんと分けて話してくれるので、まるで自分が観てきたかのような気分になれる。

仕事先の雑談でそうした話が出たとき、何度か観てもいない映画を観たことにし、話が弾んだこともある。

隆史にとって、亜希子は新しい風を運んでくれる女性でもある。

酔いが少し醒めてきたところで隆史が亜希子を抱き寄せた。

亜希子は床に座り、ソファに座っている隆史の股間に顔を埋めてくる。

そのままズボンのチャックを開けて指を忍ばせてくる。

うっと隆史がうめく。

最初はこんなことをする女性ではなかった。

性に対しての亜希子の進化はすさまじかった。

隆史が体勢を入れ替え、床に亜希子を押し倒した。

「ベッドに行くのを我慢できないよ」

隆史は手荒に亜希子を剥いていく。

「いや」

言いながら亜希子は脱がされるのに協力していた。

一糸まとわぬ姿になり、隆史は亜希子の足を大きく広げた。

見とれるほど美しい。

「きれいだ」

顔を埋め、舌先で敏感な部分を突くと、亜希子は小さく悲鳴を上げる。

ひとつになるのがもったいなくて、隆史は亜希子の全身を舌と指先でそうっと撫でていった。

息も絶え絶えになりながら、亜希子が小さく言う。

「早く……」

「ん?」

「早く入れて」

亜希子の体がすでにがくがくと震えている。

大丈夫だろうかと隆史が心配になるほど、かなり快感の頂上までせっぱ詰まっているようだ。

隆史は亜希子の腰を支えて、ぐっと自分を押し込んだ。

ぐおっというような今まで聞いたことのない声が亜希子の喉の奥から漏れる。

隆史はそのまま体を引き、ほんの少し間を開けてさらにぐっと体をぶつけていく。

あとは隆史も無我夢中で体を動かす。

それでも脳の片隅はほんの少し冷めていて、亜希子がこの世のものとは思えない声を出しながら、全身がふわりと紅色に染まっていくのを目の端に入れる。

亜希子が片手を空に上げた。

何かをつかもうとしているのだろうか。

隆史自身が亜希子の体の中に飲み込まれそうになっていく。

恐怖すら感じるような気持ちよさに包まれたとき、亜希子が断末魔の獣のような声を上げた。

隆史はその声に我を取り戻し、さらに自らの全身全霊を亜希子の中に埋めていく。

オレたちは獣だ。隆史は思う。

亜希子の体勢を変えて、獣同士のようにつがう。

後ろからぴたりと亜希子を包み込み、獣らしく激しく突いた。

亜希子の背中がヒョウのように美しい。

彼女は手で自分を支えることさえできず、ぐにゃりと床にうつぶせになった。

それでも隆史は動きをやめない。

妙な万能感に支配された。獣として、オスとして。

 

亜希子と向き合って抱き合い、ゆらゆらと揺れる。

亜希子の目はすでに焦点が合っていない。

そのままどんどん揺らしていくと、亜希子がまたぐおっという声を発した。

そのまま後ろへ倒れそうになるところを頭の下に手を入れて一緒に倒れ込む。

おうおうと声にならない声を上げながら、亜希子は最後のジャンプをしようとしている。

隆史は注意深く見守りながら、奥へ奥へと亜希子の体に入り込んだ。リズミカルに、そしてこの上なく強く。

亜希子の全身が硬直し、そのまま下半身だけががくがくと震え続け、隆史も力尽きた。

 

ふっと目を覚ますと亜希子が目を開けて隆史を見ている。

「ん?」

お互い同時に声を発して見つめ合う。

自然と笑みがこぼれていく。

「体が……ヘン」

亜希子の声が枯れている。

「大丈夫?」

そっと抱き寄せたが、亜希子はだるそうに動けずにいる。

「しっかりしろ」

隆史は彼女に言ってみたが、自分自身も体の重さを持て余していた。

亜希子が何か言っているとわかっていても、聞き取ることができない。

隆史はようやく体を起こした。

「亜希子は本当に素敵だよ」

彼女の額に唇を押し当てた。

「何が……どうなったのか……わからない」

亜希子は言葉を切りながら、絞り出すようにそう言った。

今までの彼女の最高地点にまで到達したのではないだろうか。

あの瞬間、隆史自身も彼女に吸い込まれていくような怖く強烈な快感を覚えた。

おそらく彼女もそうだったのではないか。

「こわかった」

亜希子を見ると穏やかな笑みを浮かべている。

神々しいような表情だと隆史は思った。

「オレもこわかったよ、気持ちよすぎて」

亜希子と一緒にいると、過去の人生で一度も言ったことのない言葉ばかり連発することになるのだなと隆史は改めて実感していた。

(つづく)

 

実話ベースの不倫小説 恋のあとさき 8 ~恵利の場合【2】〜

 

実話ベースの不倫小説 恋のあとさき 9 ~恵利の場合【3】〜

 

実話ベースの不倫小説 恋のあとさき 10 ~隆史の場合【1】〜

 

実話ベースの不倫小説 恋のあとさき 12 ~隆史の場合【3】〜

 

実話ベースの不倫小説 恋のあとさき 13 ~由美子の場合【1】〜

 

実話ベースの不倫小説 恋のあとさき 14 ~由美子の場合【2】〜

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
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PROFILE

亀山 早苗

1960年東京生まれ。明治大学文学部卒業。フリーライターとして、女性の生き方を中心に恋愛、結婚、性の問題に取り組む。『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『不倫の恋の決断』『妻と恋人』『渇望』『オンナを降りない女たち、オトコを降りるオトコたち』など、不倫や婚外恋愛に関する著書多数。『渇いた夜』、『愛より甘く、せつなく』などの小説作品やノンフィクション作品も手がける。

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