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小池一夫氏、映画を語る!「圧倒的世界観を体験したいなら、この映画」【第1回 ブレードランナー】

 

小池一夫氏の大ヒット作『子連れ狼』は、『Lone Wolf and Cub』として海外にも熱狂的ファンをもつ。

現在ハリウッドでリメイクの製作が進められており、日本に逆輸入される日も近いだろう。

今回は、海外にも影響を与えてきた小池一夫氏がオススメする必見の映像作品を紹介してもらった。

 

近未来映画の原点『ブレードランナー』

新たな世界観が観客を物語に引き込む

 

圧倒的な世界観を持つ作品

 

アメリカのドラマは、キファー・サザーランド主演の『24』が爆発的に当たりましたよね。

一方で、映画は100億円かけても当たらないということがあって、映画界とテレビ界がひっくり返っちゃった。

だけど、そういうテレビの映像作品に影響を与えたのは、やっぱり映画なんです。

なかでも『ブレードランナー』は、その後の近未来映画の原点ともいえる作品。

その世界観は映像好きの連中に衝撃を与えました。映画評論家がこぞって1位に挙げるほど高く評価されている作品です。

 

近未来の世界でレプリカントと呼ばれる人造人間が逃亡。

それを抹殺する任を負ったハリソン・フォード演じる“ブレードランナー”。

この作品は、空中を飛び回る未来の車のようなものとか、そういう発想が非常に豊かで面白かった。

 

『ブレードランナー』の場合、主人公はそれほど特徴のない、凡人と言っていいような男なんです。

ハリソン・フォードは、名も知れてなくてセリフもまだ下手くそだった。

ところが、そのキャラクターの周りの景色とか乗り物とか、そういうものがキャラクターを引き立てていく。

それほどの圧倒的な世界観。あの映画の背景と構成を創った人は非常に貴重ですよ。

 

 

漫画は1ページ目で「魅せる」

 

漫画界でいえば、ああいう新しい世界観を創造できたのは手塚治虫だった。

60年前、70年前に未来を想像して描いていたものが現実になっていたりするぐらいだから、全く新しい世界なのにとてもリアリティーがある。

そういう手塚さんのような独特な世界観の中で、平凡な男を主人公として描くと、その平凡さがかえって引き立つんですね。

いまの漫画は面白くない。

キャラクターを引き立てるような世界観を創れない。

例外は『進撃の巨人』。

大ヒットしましたね。

巨人に支配された世界で、主人公は圧倒的に不利な立場でしょ。

その一見平凡なキャラクターがかえって目を引いた。

最初、編集部は反対したんだそうです。

新人でいきなりの長期連載というのは。

でも、みんなが反対する中で一人だけが強力に推した。

その結果、あの大ヒットですよ。

逆にね、1ページ目から「あー、これはダメだな」っていう漫画がある。

1ページ目の見せ方ひとつでわかっちゃうんです。

なぜかというと、漫画は1ページ目からキャラクターが出てなきゃいけない。

景色や背景だけで始まっている作品というのは、面白くないんですよ。

漫画には音と動きがない。

だから、その分より一層、キャラクターを引き立てるような設定や舞台装置が必要になります。

これが映像の世界なら、たとえば巨大な宇宙艇が画面いっぱいにスーッと通っていく。

『スター・ウォーズ』みたいに。

もう、それだけで「絵」になりますよね。

「おー、スゲー」と。映像は動きますからね。

 

 

でも漫画では、画面いっぱいといっても、そこまでの壮大さは出せないでしょ。

じゃあどうするかというと、画面がその宇宙艇に近づいていくんです。

すると、窓際に女の子が1人立っているのが見える。

その時に初めて、「えっ」と読者の目がいくわけです。

「誰かいる。

この子は誰なんだろう」とね。

漫画では、キャラクターを引き立たせるということが、より一層大事になってくるんですよ。

 

黒澤明の世界観づくり

 

また、音と動きのある映像の世界なら、たとえばベートーベンの『運命』の音が背景に「ダダダダーン!」と入っていれば、それだけでキャラクターのイメージを印象づけることができます。

 

 

いい例は、黒澤明監督の『用心棒』の出だし。

印象的な音楽とともに用心棒役の三船敏郎が登場してくる。

もうそれだけで観客の目は主人公に釘付けです。

でも、黒澤監督のニクイところは、それだけじゃない。

出てくるのは、汚れきった格好をした浪人者。

刀の鐺(こじり:鞘に収めた状態の刀の先端)で背中を掻きながら登場する。

目の前の道が二手に分かれている。

どっちに行こうかと、木の枝をポンと投げて、落ちた方の道に向かっていく。

その間、黒澤監督は三船さんの顔をチラッ、チラッとしか出さないんです。

顔が見たいでしょ?

そうすると、映画館の客席で、観客がそろって右に寄ったり左に寄ったり。

画面の動きにつられちゃう(笑)

そういうところが、うまい。

人の目と耳を惹きつける術を知ってるんだなぁ。

 

『ブレードランナー』のあと、類似した作品がずいぶん出ましたでしょ。

海外で大人気の『攻殻機動隊』にも通じるところがあります。

ほんとに映像世界の原点なんです。

 

『ブレードランナー』(1982年)

監督 リドリー・スコット

主演 ハリソン・フォード

 

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写真:田形千紘  文:SAWA

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

小池 一夫

作家・漫画原作者。1936年秋田県生まれ。
70年「子連れ狼」(画/小島剛夕)の執筆以来、小説、漫画原作、映画・テレビ・舞台等の脚本など幅広い創作活動を行う。
代表作に「首斬り朝」、「修羅雪姫」、「御用牙」、「クライング・フリーマン」など多数。77年より漫画作家育成のため『小池一夫劇画村塾』を開塾。独自の創作理論「キャラクター原論」を教え、高橋留美子、原哲夫、板垣恵介、堀井雄二、椎橋寛ら、多くのクリエイターをデビューさせ、現在も後進の指導にあたっている。
2004年には米国漫画界のアカデミー賞と呼ばれる「ウィル・アイズナー賞」殿堂入り。

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