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医療の現場から、あえて警鐘を鳴らそう!崩壊するか、持ちこたえるか? 大竹真一郎 医師 インタビュー【第3回】

 

消化器の専門医・大竹真一郎氏は、メディアへの出演やツイッターなどを通して現代医療の問題点について警鐘を鳴らしています。

かさむ医療費、医者の過酷な労働環境、アメリカからの影響などが、日本の医療を悪い方向へ引っ張っていく可能性があるのだそう。

そこで気になるのは、軌道修正するために舵をとるべきなのは誰なのか、羅針盤とすべきものは何であるのか。

人生100年時代に生きる私たちがよりよい医療を構築するためにできることを、大竹先生に聞いてきました

 

──大竹先生から見てぶっちゃけたところ、現代日本の医療はどういう状況にあるのでしょうか。

 

日本の医療は今、岐路に立っていて、崩壊するっちゃするんです。

まずはお金の面ですよね。

これからどうすればいいかを考えなくてはいけません。ここで医療制度の例を挙げましょう。

 

医療制度のモデルケース

高負担・高福祉(北欧型)   高い消費税を回収し、医療費にまわす

低負担・低福祉(アメリカ型)  自己責任、自費保険

 

こういった例を参考にして、日本は選択をしていかないといけないんです。

しかし日本のみなさんが望んでいるのは「低負担・高福祉」でしょう。

マクドナルドに来店しながら「なんでこの店ではグラム一万円の神戸牛が出てこないんだ?」とびっくりしているお客さんと一緒です。

これまでの日本社会は人口というボーナスがありました。

しかし現代は出生率が低い。

従来と同じ考え方をしても、医療における問題点は改善されません。

医療リテラシーをあげていかないと、どんどん悪い方向へ進んでしまいます。

 

──今の医療を支えているのは医者のみなさんの力によるところも大きいと思います。

そんな医者たちが置かれている労働環境についてお聞きしたいです。

医者というと「勝ち組」イメージがありますが、実際はその立場が弱い……?

 

医者をいじめればいじめるほど、厚生労働省のいいようにされてしまうんです。

医者には組合がないですからね。

特に病院の勤務医の立場は厳しい。

ユニオン的なものはでき始めてはいるけど、超ブラックな職場といえます。

ある病院のエライ医者はこう言いました。

「医者の働き方だ? 患者の命が何より優先だろう。24時間365日、医者は働け!」……こんなことを言う医者に命を預けたいと思いますか?

ですが医者は、それでも働く人が多いんです。

スキルアップになりますし、目の前の患者さんを救いたいという気持ちがあります。

僕は勤務医だった頃に「ホンマいい加減にせぇ!」と思い、病院と闘ったことがあるんです。

当直というのはね、法律上は寝ているだけでもいいはずのもの。

急患が来たら仕事をするというわけです。

 

──当直も勤務システムのひとつでしょうが、そのシステムが持つ本来の意義から離れてしまっているんですね。

 

それから給与。

当直で勤務先の病院から支払われる金額は、大体三万円前後です。

病院によって誤差はありますけどね。

「十分な額じゃないか」と思われるかもしれませんが、深夜の勤務は通常、日中の給与の1.25倍を支払われることになっているんですよ。

それから考えたらおかしい。

ところが労働ルールに則って給与を支払っていたら、病院は破産してしまいますし、救急対応はやめておこうかという話になるんです。

だから病院の経営者は「普通の働き方からは外れたところで、医者の労働を考えないとね」と言い出す。

自宅待機という、病院に出勤していなくても緊急の呼び出しに対応できるようにしておくこともあります。

自宅待機の間は、外出できない、お酒を飲めない。

「それなら業務に当たるでしょ。給与が支払わなければいけないでしょ」と訴訟を起こす勤務医が増えています。

 

 

──勤務医を取り巻く過酷な労働環境を改善するには?

 

勤務医を増やすしかありません。

しかし「医者の数は足りている」と考える人がいます。

開業医がそれなんです。

自分たちのライバルを増やしたくないですもん。

医師会は開業医の親睦団体ですから、勤務医を守る組合の役割は果たせません。

勤務医を取り巻く状況はどんどん苦しくなっていくんです。

「医学部の学生を増やして医者の人数を確保しよう」と目指すのもいいですが、それが実現するのは十年以上先の話でしょう。

その間はどうするか、という問題は解決されません。

 

──医者の疲弊を考えてみたいと思いますが、「かかりつけ医」の普及に国は力を入れているように見えます。

診療報酬の改定など、かかりつけ医の活用を視野に入れた施策がとられ始めています。

 

大きな病院や大学病院の仕事は、そこでしか診れないような病気を診ることです。

しかし日本ではフリーアクセスといって、どんな大病院であろうと比較的簡単に受診できてしまいます。

受診する必要のない症状でも患者さんがやって来る、これはリソースの無駄使いです。

かかりつけ医は、大きな病院で診ないような病気はかかりつけ医で対応しようという、医者の役割分担を図るシステムですね。

その点はいいと思います。

ただし、かかりつけ医に当てはまるとされる家庭医には、やぶ医者が多いんです。

ここに二人の医者がいるとしましょう。

一発の検査で病気を発見し、一発で病気を治す医者。

何回も検査をしてようやく病気を見つけ、さらになかなか病気を治せない医者。

どちらの方が儲かるかというと、後者です。

今の日本の医療システムでは、やぶ医者が儲かってしまうんですよ。

こういうシステムでは、頑張った人へのインセンティブが働きません。

悪徳タクシーと一緒です。

だから日本の医療の問題点は、システムの問題でもあります。

頑張っている医者もたくさんいるけど、スキルを持っていない医者が得をするシステムです。

現状のシステムを崩壊させて、自費制にしてしまうのもひとつの手じゃないかな。

最低限のセーフティーネットは必要ですよ。

 

──検査すればするほど、儲けになる。

辛辣な言葉でもありますが、そこで得をしている人も存在しているという問題点が確かにある……。

薬でも議論になりがちですが、検査にも受けた方がいいもの、受けなくていいものは人によって違うのでしょうか。

 

健康診断でがんが発見されることがありますよね。

胃がん、大腸がん、肺がん、子宮頸がんと乳がんなど。

これらの発症率は人によります。肺がんは特に喫煙者は可能性が高いですね。

少なくとも、検診を受けたことで何らかの病気の発症率を下げることができるなら、そこに意義があると僕は思うんです。

がん検診のうち、大腸がんの検診を受けたグループは発症率が低くなっています。

しかも検査は便をとるだけの検便です。

痛い思いは何ひとつしません。

大腸がん検査のデメリットといえば、がんではないのに「がんかも」と言われることくらい。

とはいえ再検査で異常がなければ、それでいいんです。

乳がんの検診は、30代以下ではあまり必要性が高くありません。

むしろ検査が害を及ぼすことがあると理解してください。

40代は検診の必要性は微妙ですね。

50代を超えたら、必ず検診を受けた方がいいです。

子宮頸がんは20代から検診をした方がいい。

これは絶対に言い切れます。

セックスをしたことがあるならすべきです。

 

 

──年齢、ライフスタイル、これまでの人生。

そういったものを考慮して、検査をするかしないかを選択していくのがよさそうです。

でもなんだろう、ちょっと照れくさい。

真面目に医療や健康のことを考えてこなかったからか、いざ自分の体と向き合うのが下手かもしれません。

 

50代のオジサンだと、血便が出て検査で引っかかっても「俺、痔だから!」で誤魔化してしまう人もいますね。

たしかに検便の検査に引っかかったとしても、実際に大腸がんだったというのはそのうち約3%です。

若い人であれば再検査の結果、「ただの痔でした」で済むことも多いでしょう。

ですが50代なら、きちんと大腸がん検査を受けてくださいね。

大腸の内視鏡検査で苦しい思いをする患者さんはいらっしゃいます。

これは医者の腕によるところです。

胃カメラだと医者による違いはあまり出ません。

喉から入れた胃カメラをまっすぐ進ませれば胃に辿り着きますから。

けれど大腸はぐねぐね曲がりくねっていますので、たぐり寄せたり、腸のかたちを感じながら入れていかないとうまくできないんです。

腕の差がめちゃくちゃ出るのが、内視鏡検査ですね。

僕の腕は名人レベルとまではいかないけれど、町の巨匠レベルではあると思います。

僕の内視鏡検査は、カメラを入れるのに5分、抜くのに10分。都内の医者のなかでは、標準より少し上手くらいでしょうね。

しかし、田舎では検査に平気で一時間かかることが少なくない。

内視鏡検査の途中でトイレに行く患者さんもいるようです。

医者の少ない地域では、そういう辛い思いをした患者さんが「あぁ、痛かった。もう検査はしたくない。しないことに決めた」となってしまいがちなんです。

医者が多ければ「うまいと評判の医者を探そう」と考えることができますが、選択肢に差が出てしまいます。

 

──医療における地域格差ですね。人口、政治、経済など東京への一極集中が問題視されていますが、医療もなのでしょうか。

 

そうとは限りません。

内視鏡検査は関東に腕のいい先生が集まっているかな。

横浜の松島クリニック、千葉の辻中病院柏の葉とかは内視鏡検査に定評があります。

一日中、内視鏡検査を行っているような病院やクリニックは、医者が経験する検査数が多いので腕も上がりやすい。

僕は一時期、内視鏡検査を年間で1,000件くらい行っていました。

当時の東大病院で年間5,000件。

僕は専門の病院で内視鏡検査ばかりしていたからそのくらいの数になったんです。

このことを大阪の医者に言ったら「嘘つけ。そんなに内視鏡してる人間なんかおらへん」と信じてもらえなかった。

そんな人間、東京にはなんぼでもおるのに。

かといって、検査をたくさん経験したから上手くなるとは限りません。

評判のいい病院を受診するのもひとつの手です。

心臓疾患なら国立循環器研究センターが大阪にあります。

カテーテル検査だったら松戸の千葉西総合病院がいいんじゃないかと思います。

小倉とか岡山など関西にも上手い先生はいらっしゃいます。

 

──患者側の視点、医者の視点、双方から医療を考えていかないといけませんね。

 

健康にはなりたいけれど医療についてちゃんと考えていない人って、意外かもしれませんけど多いんですよ。

医療制度には限界が見えつつある一方で、問題点は依然として解決の糸口が見えないまま。

医者は24時間365日働いて当たり前のロボットだという前提で、日本の医療の現場は来てしまったんです。このギリギリの状況に。

 

 

人生100年時代の日本の医療は、厳しい状況に瀕していることがわかりました。

医療を考えるには国の財政から国際政治に至るまで多方面にアンテナを張ったり、視点を変えて柔軟にものごとを捉える姿勢が求められるようです。

難しいように思える反面、頭が刺激され、視界がクリアになってきたような気がします。

次回のインタビューでは、人生の折り返し地点を超えたころに気になり始める、更年期の症状や腸内環境についてお話しを伺います。

 

文:鈴木舞 イラスト:山里 將樹

 

 

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編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
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PROFILE

大竹 真一郎

1968年兵庫県生まれ。
高校を中退した後に大学入学資格検定(現、高等学校卒業程度認定試験)に合格し、神戸大学医学部医学科を卒業。
愛仁会高槻病院でスーパーローテート研修(多科研修)を行い、その後は消化器専門医として、けいゆう病院、辻仲病院柏の葉、平塚胃腸病院附属クリニックなどで通算1万例以上の内視鏡検査を実施し、研鑽に励む。

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